匿名さん 2021-01-26 10:18:28 |
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( 聞き慣れた声に振り返る。瞳に映ったその人は、丁度帰路に就く後輩たちに手を振っているところで、変わらない気さくな笑顔に少しの間見惚れてしまう。次にこちらを向かないか、俺の名前を呼んでくれはしないか、なんて密かな期待も虚しく、さっさとイヤホンを耳に押し込む姿にこっそりと溜め息を零せば、弓道場の外へと目を遣る。……今日は来ていないか。付き合い始める以前から、部活を覗きに来ていた定位置に彼女の姿はない。あちらの部活が長引いているのか、それとも今日は俺じゃない人と帰るのか。どちらにせよ、彼女の部活の様子は見に行かないと。他の人に想いを残したままとはいえ、告白を受け入れた以上は彼氏としての役割を果たす必要がある。義務感のように考えながら、前を行くその『想いを残したままの人』を追い越して、振り返る。イヤホンをしていてどうせ聞こえないだろうから、声には出さずに口パクで『お疲れ様です』と残して背を向けた。歩くのが遅かったわけでも、急いでいたわけでもない。それなのにわざわさ追い越したのは、きっと、一秒でも長くその瞳に俺を映して欲しかったから。 )
初回ありがとうございます。やや長めになりましたが、こちらの長さはお気になさらず。例によって心情ばかりですが、表情だとか声色だとか些細な仕草だとか、ロルから適当に想像して脚色していただいて大丈夫なので。
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