2021-01-14 23:03:52 |
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( 仕事終わり、何時ものように終電に滑り込み、重い体を自宅まで連れてきた頃には既に零時を過ぎた時分で、開いた液晶に映る四桁の数字に自然と口許は脱力し自嘲するような息だけの笑みが零れてしまう。まあいい、今日は帰ってこられたんだから。鞄に携帯端末を仕舞う代わりに慣れた手付きでキーケースを取り出せば、上体を屈めるのが億劫で絶えず押し寄せる疲労と安堵に任せて足を折り曲げ、視点を低くする。立っていればおおよそ膝元に位置するだろう金属穴へと鍵を差し込み錠前を回せば、カチャンと耳に馴染んだ解錠音が憩いの時間の近さを思わせる。食事も風呂も面倒だ、今日は全て朝に回して早い所ベッドに入ってしまおう。怠惰に思考を任せ薄いベッドに体を横たえることその一点のみを夢想し、外行き用にと張っていた気を緩めて扉に手をかけた、その刹那。突如走る強い衝撃に視界は涙の膜を張り、正方形だったはずの扉がぐにゃりと大きく歪む。なんだろう、頭に雷が落ちたような、このなんとも形容し難い強い衝撃は。視界に火花が散るとはこのことを言うのだろう、生理的な涙で滲み揺れる瞳の中に白い閃光を無数に見る。そして、熱い。白い閃光に一拍遅れて後頭部から拡散していく凄まじい熱に気を取られつつ、ぐらりと左に舵を切る頭を制御することもできないまま、まるでスローモーションかのようにゆっくり、ゆっくりと自身の頭は着実に地面へと吸い寄せられていく。ぼんやりと薄れゆく意識の中、己の耳が最後に拾ったものは。ゴトンと、何か質量のあるものが自身の真横へと落ちる音だった。 )
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