とある悲恋好き 2020-11-26 23:20:11 |
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───っ!
(不意に伸びて来た掌が自身の頬に触れれば一瞬戸惑う様に顔を強張らせ。其の時に成って明白に認識したが相手の虹彩は翠色。最初に声を掛けられた際も外国人ではないかと云う印象を受けたが東北か九州の血でも入っているのだろうか。然し他意無く浮かんだ其の疑問について思索を進め様にも……血、と云う単語が脳裏を過った途端、急速に飢餓感が沸き上がり。不味い、其の様な心算では無かったのに。ごくりと喉を鳴らし相手の語る言葉も一枚硝子を隔てた先の出来事であるかの様に現実感を喪い右から左へと抜けて往く様で、次の刹那には反射的に踵を返そうとした。相手の意図が如何なものであれ自分は此所に居てはいけない。数分後に此の場を相手の鮮血で沈め其れを舐めて人心地を得る自分の姿が想像出来てしまい。陰惨な未来を避けたいのであれば確実な方法は立ち去ること。だが其の目論みは思い掛けない相手の行動に依って計らずとも敢えなく崩されて。
急に抱き止められ否応無く相手の持つ温度と躯の感触が伝わる。酷く驚いたが寧ろ其れ故に咄嗟の行動を取れず、持て余した手の所在も見付けられず。一拍、否、二拍程だろうか。間を置いてからハッとした表情となり我に帰ると相手の首元に視線をやり、腹の底に燃える様な衝動を覚えるも直ぐに右手で相手の肩を掴み、其の儘徐に力を入れ静かに自身から相手を引き剥がして。警戒するかの如く同時に一歩相手から距離を取れば、気持ちの切り替えを望む様に天井を見上げてから瞳を閉じて一度深呼吸し。改めて瞼を開けば、此れ以上欲望が刺激されることを避ける為に相手からは視線を逸らし斜め下方の床を眺めつつ、内心では漸く先刻迄に相手が語った今の状況に対する説明を反芻して。……心配、と言ったのか、目の前の人物は自分に対して。擦ってみれば其れは久しく縁が無かった単語であり。其の言葉は、最早適当に思える受け止め方も忘れてしまった。善意と喜ぶ可きか憐れむなと怒る可きか、僅かな間に思考は回り、過程で簡単な受け答えすら出来なくなっている自分に気付いては瞳に宿したものが荒みから寂寥へと変わり。軈て口を開けば、内容は突き放す様でありながら、其の割りに敵意や攻撃性は孕んでおらず、寧ろ何処か諦感を纏った静かな声音で)
……別に、あの家だって危険な場所じゃない。気まぐれのお節介は迷惑なだけだ。他に変な趣味とか、意図があるわけでもないなら放っておいてくれ。俺は帰らないと。
(/その辺りのことは最初のトピックにも記載の通りとなっています。そして、今後もペースは3~4日に1回程度になりそうでしょうか?そうであれば、こちらもそのような心積もりでいさせて頂きますね。私は夏目漱石の作品なら『坊っちゃん』が好きですね笑 『吾輩は猫である』は小学生くらいの時に一度読んだきりです)
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