匿名さん 2020-11-18 13:04:59 |
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>Nora
(彼女の後に付いて廊下を進んでいく。長い廊下の先には、またまた大きな扉、それを開けたことで広がる新しく広い空間に圧倒され、何の言葉も出てこない。まだ脳が情報を処理しているというなか、彼女は扉の向こうへと行ってしまった。広い部屋に一人残され、一体どうするべきか…数分間その場に立ち尽くしていたが、流石に体力も限界。ふらふら倒れ込むように椅子に座りこんで、心を落ち着かせるよう深呼吸をした。
座ってからどのくらい経っただろうか、久し振りに歩き回って棒のようになった足は、こうして休んだことで随分と使い物になってきた。微量な体力もほんの僅かに回復してきて、部屋全体を見渡す余裕くらいは出てくる。行儀良く椅子に座り、首だけを動かしてあちこちに視線を向け。やはり一番始めに目につくのは巨大なシャンデリア。細かな装飾は勿論、光に照らされてきらきらと輝くそれは幻想的で、いくら長時間じっと眺めていても飽きないだろう。また、今自分が座る椅子も、そこらの椅子とは格が違い如何にも高級感の漂うもの。きっと自分が今まで座った、見た椅子の中で最上級の品質だ、数時間前まで、冷たく硬い、雪を被った煉瓦の上に縮こまっていた自分にとって、まさに夢のような座り心地。そして極めつけに、部屋の中でシャンデリアに負けず劣らず強い存在感を放つテーブル。怪しげに揺らめく蝋燭の炎が、室内特有の雰囲気を上手く演出していた。此処に彼女の他に誰か住んでいるのか__、仮に一人だとするとあまりにも大きすぎる。しかし、屋敷の中をここまで歩く途中、全く人の気配を感じなかった__。
そんなことを考えていると、彼女がカラカラとワゴンを押して戻ってきた。そして、こちらが何か言う余地もなく次々と目の前に並べられていく豪華な料理。もしかしたら夢なんじゃないかと錯覚してしまう程だが、鼻孔をくすぐる香りに目の前の料理が本物だということ、これは夢でなく現実だということが身をもって伝わり。その時、彼女からの“御食べなさい”の言葉、確かに取引の際“衣食住を与える”なんてことを言われた、のだが。本当に自分が食べていいものかと彼女の顔を見た。
しかし、こんなにも美味しそうな料理を目の前にして食欲に敵う筈がない。もう抑えられない衝動に身を任せスプーンを手に取ると、一口分ミネストローネを掬って口へ運び。じわじわと身体の芯から温まっていくこの感覚、美味しい以外の何者でもなかった。一度動き出した手は中々止まらず、感想を述べる暇もなくあっという間にミネストローネは完食。
「……美味しい、っ」
たった一言、それしか言いようがなかった。何故だか涙が溢れてきて、緊張で固かった表情は随分と柔らかく変わり、今日初めての笑顔を見せ。そして涙を拭い、続いてスプーンをナイフへと持ち変え、慣れない手付きでローストビーフを切り取る。テーブルマナー、孤児院時代に基本は教わっていたためある程度は理解し、食器も使いこなせていたのだが。何しろこうした食事は本当に久し振りなのだ、辿々しくナイフを扱ってぱくりと口の中へ。噛めば噛むほどに肉の旨味が出て、一瞬のうちにローストビーフの虜となっていた。夢中になって食べ続け、料理もお腹に溜まってきたところ。ふと彼女の方へ顔を向ければ、彼女の前には自分のような豪勢な食事はなく、置いてあるのはワイングラスたった一つだけ。お腹が減っていないのか、食材が自分の分しか無かったのか__色々と疑問が浮かぶが、なにも食べないのはやはり此方としても心配。空腹のどん底を味わってきたからこその考えで、心配そうに質問を投げ掛ける。
「……君は食べない、の?、」)
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