匿名さん 2020-11-18 13:04:59 |
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>Nora
(聞こえてきた彼女の声、何か地名を言っていたのだろうが、今まで聞いたことのない場所だった。孤児院時代に本や地図を読み漁っていたこともあり、この町のこと、また、近くの地名も大体は把握していると思っていたのだが…。彼女の口から発せられた謎の場所は完全に初耳。もしも自分が知っている場所だったのなら__、もしかしたら今後の自分の運命が考察できたかもしれない、それに“目的地がハッキリしている”ということで少しは警戒も解けたのだろう。いや、先程の彼女の言葉で目的地は判った。只、自分がそこを知らないだけなのだ。どうにかしてイメージを固めようとしても、靄がかかったように曖昧で。行き先の判らない不安、これからの運命_、俯いたまま色々と考えていた。それに伴い、胸の鼓動もどくどくと速まっていく。初めての馬車、急激な環境の変化、焦りも含んでいる精神状態、彼女の隣__。一体何が直接的な原因となっているのか、今の自分には判る由もないが、こうした本能的な身体の反応で改めて“自分が生きている”ということを実感した。
馬車の中、どのくらい揺られたか。突然ふ、と肩辺りに軽い感触、そしてじわじわと暖かさを感じ。俯いていた顔を上げると肩にはケープ、それもほんの数秒前まで彼女が使っていたもの。確かに、馬車の中に入ったからと言って大きく体温が上がったわけでも、震えが治まったわけでもなく。御世辞でも“暖かい”なんて言うのは難しかったのだが…。その行動に驚いたように貴女を見た。何故自分に此処までしてくれるのか、幾ら考えても答えの出そうにない疑問であった。
「……有難、う」
か細い声で御礼を伝えては、表情の険しくなった貴女をから目を逸らすかのように、視線を窓のほうへ向けた。休む暇もなく流れていく景色は、もう自分が住んでいたあの町ではない。気まずさから逃れるために見ていた窓からの眺めを、いつの間にか夢中になって眺めていた。
我を取り戻したのは、その馬車が目的地へと到着した時。かなり長い時間、ずっと窓越しに外を眺めていたことになる。そこまで夢中になるつもりなんて全く無かったのだが、隣の彼女から何か話し掛けられることも無かったため、自分の世界へと入ってしまったんだと思う。
その直後に馭者からの声掛け、隣の彼女は慣れた様子で御礼を伝えては差し出された手を取っていた。降りて直ぐ歩き出すのでなく、態々立ち止まって振り返り自分を見つめたのは、何か理由があるのかと察し。その直後に自分も降りるのか、という結論に辿り着くと、足下に気を付けつつ遅れながらも彼女に続く。馭者にぺこりと頭を下げた後馬車を降りて、貴女の側へ)
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