穏やかな同僚の秘密(〆)

穏やかな同僚の秘密(〆)

水沢 透  2020-11-14 22:37:24 
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  • No.235 by 水沢 透  2021-01-23 23:32:04 

だったら嬉しいな。役には入り込んでたからなぁ。みんなと本気で準備した演劇だったからな、そりゃもう頑張って覚えた
(相手の言葉に照れくさそうにしつつ微笑み。「脚本の人凄いよな。舞台の効果とか演出も脚本の人が頑張ったんだ」と相手の言葉に頷いて。役者はもちろん、音響や大道具、小道具など関わった者が一丸になって作り上げた演劇だったと懐かしく思いながら。


足立「これでもまだ、僕のことを信じられるのかな?」(主人公の方を見て)
主人公「足立さん、あなたは取り返しのつかない罪を犯した。それは紛れもない真実だ。だが俺は……堂島さんにあなたのことを託された。堂島さんと俺の意思で必ずあなたを連れ帰る!」(主人公のペルソナが出現し)
足立「そのペルソナ、僕のペルソナとそっくりだ。気にくわないね!」(主人公のペルソナに襲い掛かり)
主人公「ペルソナはもう一人の自分、心の力。力の形が似ているあなたなら、俺の言いたいことが分かるはずだ!」
足立「はっ、それなら僕の気持ちも分かるっての!? 君らの言う犯罪者ってやつの気持ちがさぁ!」
主人公「俺は……ただあなたと!」
足立「わかりたくもないねぇ!」
主人公「そうやって、すぐに全てを否定する! 歩み寄ろうともせずに!」
主人公「……どうして、どうしてこうなってしまったんですか。あなたには出来たはずだ。分かっていたはずだ。堂島さんや菜々子の寂しさが。その不器用さが。だって俺たちはそれぞれ孤独を感じて生きていたのだから。もう少しでも歩み寄っていれば、それさえ出来れば……!」
足立(ぐっと歯を食いしばり)「できねぇからこんな世の中なんだろうがあっ!!」(ドスもきかせながらこれまでで一番の怒鳴り声で)
足立「放っときゃいいかと思ってたが目障りだ……消してやる! 消えろ、消えちまえッ!」

ペルソナの攻防は激しくなり音とライトの明滅も激しく。
収まった後に主人公とペルソナは立っている。

足立「ウザイよ! もうすぐ世界は変わるんだ……お前らの存在自体がムダなんだよ!」
主人公「あなたは自分のしたことに責任を取らなくちゃいけない。仕方ない、自分は悪くない。分かっているのに自分のしたことを世の中のせいにして……知らないフリをして嫌なことから目を背けて……なのに選ばれたような顔で優越感に浸っている。向き合いもせずに。そんなふうだったからあなたはっ!」

再び始まるペルソナ同士の戦い。剣戟の音が響く。

主人公「現実が辛いなんて……みんな分かってる。でもそれは嫌なことがあるからじゃない。みんな何かに立ち向かっているから! 未来が不安だから戦っていて、自分が傷つくかもしれないから怖くて辛くて、それでも目を背けないで前に向かって歩いていく。それが生きるってことで、強さだと思うから! 俺はあなたには負けない! 負けるわけにはいかないっ!」
足立「負けるわけにはいかない……か。そんなにいうなら……この衝動を止めてみせろ!!」

押される主人公の元に別の場所で残って戦っていた仲間が合流し足立のペルソナに攻撃して止める。

茶髪の青年「相棒……アイツはもうお前の知ってる足立じゃないぜ……」
主人公「あぁ、わかってる。みんな……力を貸してくれ!」

足立と主人公たちの戦いが始まる。

主人公の声(あの晩、食事に誘った晩、あなたは俺の誘いを断らなかった。それは……きっと、俺に歩み寄ろうとしてくれたからだと今でもやっぱり思う。誰にだってそういう心はあるって信じているから)

主人公「俺は、あなたともっと話したかった。あなたのことを知りたかった」
主人公「そう、できることならもう少しだけでも前にあなたと出会って、今みたいに言いたいことを言って、喧嘩して、認め合って、あなたとも、今いるみんなと同じようになれたら良かったよ」

主人公のペルソナは足立のペルソナに打ち勝ち、足立のペルソナは消え、足立は倒れて。
主人公は慌てて足立に駆け寄り足立の身体を起こして。

足立「……なんだよ、つまんねぇ。もういい、戻るとこなんかないし……これで、終わりか。君らは君らで……考えたとおりに生きりゃいいさ。未来を変える力ってのが、君らにはあるっていうんなら、さ……」
茶髪の青年「んなもん、誰にだってあんだよ」
足立「さぁ……どうだかな。行けよ、僕はもうダメそうだ。ここでシャドウにでも食われてやるさ」

茶髪の青年「ここに瀕死のテメェを置いてってそんなん……なんになんだよ。つまんねぇ遊びは終わったんだ。テメェは連れて帰る。生きて裁きを受けなよ。……それが現実のルールってもんだろ」
小柄な少年「堂島さんもそれを一番望んでいるでしょう」
足立「……同じ力があるのに、こんなに結末が違うなんてな……」
主人公「みんながいたから……」
足立「みんな……ね」
主人公「足立さんだってこれからは……」
足立(力なく笑って)「ウザイよ、そういうの。簡単なんだよ、言うだけならさ……。でも、君みたいに生きてたら、少しは違ってた……かもな」

暗転し、テレビの販売コーナーの背景になって。

警官「堂島刑事から連絡を受けています。容疑者指名足立透。容疑は山野真由美、小西早紀に対する殺人。以上でよろしいでしょうか」
小柄な少年「間違いありません」
警官「了解しました。下に救急車を呼んでますがここから担架で運びますか?」
小柄な少年「救急車……」
警官「堂島刑事が必要だろうと。容疑者を手厚く保護して欲しいと……その、あくまで個人の要望として頼まれましたので」
短髪の少女「相棒だったもんね……」
小柄な少年「では担架をお願いします」
警官「了解しました」
主人公「足立さん、いつか……また会いましょう」

そして幕が下りる。会場からは多くの拍手の音がした。



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