ビギナーさん 2020-11-09 08:35:35 |
通報 |
2
「まだ暗い顔してる」
食事と入浴を済ませ、ソファーで寛いでいる俺に絢世が呟いた。絢世は俺のことをよく見ている。勘が鋭くて、隠し事なんてできない。
観念して、横にずれると隣に絢世が腰掛けた。
そうした途端に、絢世は俺の頬に手を添える。そして、強制的に目を合わせられた。
「柾樹。僕の目を見て」
「見てるよ」
「じゃあ、僕の目の中に何が見える?」
「……俺。日野柾樹がいる」
「正解。柾樹は柾樹だよ。だから、大丈夫。何も心配いらない」
絢世がふっと微笑む。温かい手が離れて、俺は力が抜けたみたいにずるずると絢世にもたれかかった。
絢世の膝に頭を乗せて、天井を見上げる。
照明の白い光が目に入り、チカチカする。
「……眩しい」
「蛍光灯に負けるなよ、太陽」
絢世は全然へこたれない。俺みたいに弱音を吐いているところは見たことがない。強い。蛍光灯なんかより眩しかった。紛い物とは違う、本物の光だ。
「俺たち、いつまでこうしてられるんだろう。皆はずっと『Light』を好きでいてくれるのかな。あと数年経ったら、飽きられちゃうのかな。忘れられたらどうしよう」
「そうだね……忘れられないように、いっぱい頑張らないとね」
「うん、一生懸命頑張る……絢世がいるから、きっと大丈夫だ」
そう言うと、絢世は目をわずかに見開いた。俺、そんなに変なこと言ったか?
ーーああ、ダメだ。眠い。
絢世の傍は本当に心地いい。絢世が俺のお母さんだったらよかったのに。そうしたら、俺はもっとまともな人間になれたはずなんだ。きっとそう。
その日はすごくすごく幸せな夢を見た。でも、どんな内容だったかは覚えていない。
トピック検索 |