名無しさん 2020-10-21 17:10:45 |
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止せったら。君にそれほど沢山のものを与えた覚えは…いや、違うな。そもそも貸しだと思っちゃいないんだ。君との関係に法則としての等価交換を持ちこむつもりはない。ギブアンドギブだって構わないんだよ、それが友達ってものじゃないのか?それに私は、100万ポンド以上の…それこそ金銭に換算するなんて馬鹿げてるくらいのものを既に貰ってる。
( 友人の言葉をそっくり信じるなら、己は彼に決して少なくない貸しを作っているらしい。読んで字の如く覚えがないのは記憶障害の可能性が無きにしも非ず、ならばと発想の転換から自論を展開。生まれた思い出が回想される前に丸々失われようと、例えそれが何度繰り返されようと、一度芽生えた親愛の情は簡単に掠れて消えてしまうものではない。何度頭蓋の内側から排されようと、胸のいちばん奥で覚えている。故に謙虚な反省を敢えて否定はするまい、この誠実で情に厚い友には何もかもを与えんとする己が好意こそ証明だ。身も心も発明に捧げた我が人生、もし彼が望むなら最後に残った魂だけは差し出そう。何にも代え難い献身に報いる方法をそれ以外には知らないから。そして肉体の死後、彷徨える魂を不可視の神や悪魔に明け渡すより、自身の救いとなった確たる存在に最期の贈り物として委ねる方がずっと魅力的に感じられたのだ )
そんな顔するなよ、弁償なんか考えなくていい。私を誰だと思ってる?天才発明家のバルサーだぞ、自分で部品を拵えるのだって朝飯前だ。……ン?なんだ、それが気になるのか?電磁気学に興味があるなら、君の為に特別授業を開講するのも吝かじゃない。はは、実行するなら今晩どころか丸々二晩は寝かせてやれないけどな!折角なら数学や工学分野に限らず、私が知っていることなら何だって教えよう。
( 見る見る萎れた態度は可哀想なくらいに心苦しげな表情と相俟って同情を誘う。自若として言ってのけた言葉に偽りは無く、常ならばおいそれと露わにしない自負心を過剰なほど主張することで内省に浸る友人を宥め。どうせ新たに作り直すなら更に小型化を進めるべきか、いや機能面を改めるべきかと考えを巡らせる。そのまま思索に耽る寸でのところではたと気付けば、目に映るのは書籍を開いた彼の姿。例え一時の気まぐれにせよ、己の専門領域に触れようという試みが見られるのは喜ばしいもので。冗談半分本気半分、淡い期待を乗せ驕傲とも取れる態度で勧誘。乾いた唇を舐めると、微かな鉄錆の味がした。頻繁に穴の開く不完全な知識大系は誇れたものではないが、知的好奇心を満たすに十分なものではあると思いたい )
───ふむ。ああ、成る程…希望か。それは確かに忘れちゃならないものだ、見失って泣きたくなるのも道理だな。ありがとう、今度はしっかり覚えておくよ。日記にも書いておこう、もう忘れないように。君の記憶力が良くて助かった!じゃあそうだな…ついでにもう一つ。このメモがどういうことかは分かるか?
( 自分自身に対して類推を行うのも滑稽な話だが、凡その見当は外れておらず、如何やら午前時間の幾らかを友人と共に過ごしたようだった。一字一句聞き漏らすまいと真剣に耳を傾け、表情の変化さえ見逃すものかと其方を見据える様はいっそ不躾に映ったかも知れない。とはいえ、終始真顔でだんまりとしていた訳ではなくて。苦笑を浮かべ、肩を竦め、嘆息し、得意げな笑みを湛え、頬を掻く。随所随所にごく自然な反応と相槌を挟みつつ、過集中の一種として挙げてよい程の熱意を以て一連の話を聞き終える。友人の語り口の節々に己への信頼と讃美が見え隠れしており、正直言って悪い気はしなかった。感謝の言葉に自戒を添え、加えて備忘録たる一枚の紙片を差し出しながら問いを重ね )
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