アルバート 2020-10-07 14:22:52 |
通報 |
嘘、今日みたいに動けなくなったら今度こそ死ぬわよ。
(やたら人参ばかりの皿をスプーンでかき混ぜながら、歯がゆそうに答えるアルバートに釘を刺す。2人の言葉に「今日何かあったのか?」と首を傾げた親方に掻い摘んで説明し、そういえばデートだったんだよなと舞い上がっていた今朝のことを思い出せば、まずいことに気がついて。アルバートに好きな人がいるなら自分とデートしたことをその人に勘違いされたらアルバートが困る、どうせ彼は今日の外出を一瞬でもデートだなんて考えもしなかったのだろうとため息をつくと、あとで必ずデートを否定しておかなくてはと心に決める。一瞬黙っていれば彼が失恋しチャンスが巡ってくるかもと卑怯な考えが頭をよぎったが、頭を振って邪念を振り払うと失踪者の話に集中して。)
本当に間違ってなかったんですね……
(しかし親方の話は報告書以上のものは特に何も無かった。というのも、本隊も急に現れた魔法使いに問答無用で襲いかかられて、何とか拿捕するも意識を失い、それ以降目を覚まさないのだから情報も何も無い。むしろ失踪者のうちの一人だと判明できただけすごい、本隊レベルになるには戦闘だけでなく調査能力もまだまだ及ばないと身がひきしまる思いだ。最後まで話し終えた親方が少し逡巡してから口を開く。「報告書にできるようなことじゃあねえ、根拠もねえ俺の勘だが。」そう前置きすると以下のことを語り出して。その魔法使いは意思を感じられず、知能の低い獣のようにただ暴れているような印象を受けたということ。意識を失ったのも、試験のアイリスと違って気が抜けた瞬間などではなく、体力と魔力の限界で倒れるその瞬間まで高火力のまま暴れ回っていたという。そんなことが生物に可能なのだろうか。またあんな場所にいたにも関わらず、着の身着のままで何も持っていなかった。まるで置き去りにされたかどこかから逃げ出したか……あの危険な地域でそんなことが可能だとは信じ難いが。そこまで聞いて『北の渓谷』『不自然な凶暴性』というワードにいつかのモンスターが思い出されたが、これ以上は現時点では判断しかねて口に出すことは無かった。それから話題はこの件のことや、全く関係ない笑い話を行き来しながら美味しい夕食の時間は進む。渓谷へ行く日取りも完治してから、2週間後だとアルバートは親方からも軽く叱られたりして、そろそろ先程のデートの否定も兼ねて、いつかのようにアルバートを訓練にでも誘ってみようかと考え始めた頃で。)
トピック検索 |