アルバート 2020-10-07 14:22:52 |
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……。
(自分が同期の彼と比べられるように、彼もまた自分と比べられ嗤われた日があったことは知っている。寧ろ女である自分に比べ、体格も実力も成長のスタートが遅かった彼の方が酷いことを言われたかもしれない。それでも八つ当たりをされて怒るどころか、アイリスに謝る優しい彼に、癇癪を起こした自分が恥ずかしくなって襟から手を離す。彼の「知らなかった」という言葉に思わず顔を上げると、目の脇がジワジワとうるんでいく辛そうな表情が映った。
──そうか、自分はまだ彼の前で理想のライバルを演じられていたのか、と久しぶりに努力が報われた気がした。女で身長を抜かれてもなお彼より強く、悩みも苦しみも知らぬ、未来に絶望などない強い冒険者に見えていた。アルバートと比較し苦しんだ癖に、目の前の彼の気持ちに初めて思いが至る。今も昔も自分はこのライバルに負けたくなかっただけだ、今そのライバルに強いライバルだと認めてもらえている、それ以上に望むものがあるだろうか。あれだけ苦しんだにも関わらず、随分アッサリ見つかった答えに自ら呆れてため息が漏れた。
冷静になると自分で引き寄せた距離が恥ずかしくなり離れようとしたところで、強く抱きしめられてつんのめる。文句を言う前に頭の横から泣いている声がして、どこまで彼は優しいのだろうと半ば呆れてしまう。宥めるように抱き締め返してやって、これ以上アルバートのシャツを汚さないように手の甲で背中を撫でる。以前もこんなことがあったかもしれない。続けられる彼の底抜けに優しい言葉に、自分はもう落ち着いたということを伝えるために、それは穏やかな声で、はっきりと拒絶の言葉を。)
いらない、人に自分の夢を叶えてもらう気はないの。
ね、アル、泣かないで。アンタの涙には弱いのよ。
……アルバートが強くなった時、隣にいなかったら面倒見てやれないじゃない。アンタ泣き虫だもんね。
(子供の頃ギルドに入るずっと前にそう呼んでいたように呼びながら幼馴染の背中を叩いて宥める。ここで夢を幼馴染に託し、その胸に顔を埋めて泣けるような可愛げがあれば、そもそもここまで悩みはしないのだ。立派な冒険者になって、ギルドを継ぐ、そしてその隣にはライバルとしてアルバートが活躍していること、前2つの夢は彼に叶えることが出来ても最後の夢は自分で叶えるしかない。そこで素直になれない悪癖が出て憎まれ口を叩きながら、優しい幼馴染と対照的に意地っ張りで人前では泣けない乾いた顔をあげ、零れた涙を拭ってやる。指先にこびりついていた乾いた血が赤く伸びてしまったのをブラウスの袖で雑に擦ってやると、そろそろ本気で羞恥に耐えられなくなって離れてというように、肩を軽く押して。)
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