アルバート 2020-10-07 14:22:52 |
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……は?
何を寝惚けたことを言っているの?
(アルバートの頼みを快く承諾して、多少休んだといえど痺れた手が痛むのを隠して木刀を拾い上げる。さて何から教えたものかと思案していた時、背後からアルバートの笑い声が響いた。その内容が冗談だと、普段の冷静なアイリスであれば理解出来たに違いない。しかし、タイミングがあまりに悪すぎた、2人以外の人の見えなくなった訓練場に木刀の落ちる高い音が響く。木刀を拾いもせず、つかつかとアルバートに詰め寄るとその胸ぐらを両手で荒々しく掴み引き寄せる。)
……それなら寄越しなさいよ、身長も、力も!私ならアンタよりずっと上手く使って見せる!!
アンタにわかる!?チビでも男のアンタに!
女ってだけでどんなに鍛えたってどうせ強くなんかなれないし、父さんの後だって継げない!!
毎日毎日馬鹿みたいに訓練して戦って!!それでもチビのアンタすらこんな貧弱な手じゃ持ち上がらない!!!それなのに!!それなのにッ……アンタは……
(元々大きな目を見開いて、アルバートに肉迫する。その白い顔を怒りで赤く染めて、とうに限界を迎えた手の無数の豆やタコからも血の赤が滲んでアルバートの襟を汚した。八つ当たりだと自覚しても、一度溢れた怒りは止められない。
ギルドの親方に産まれた唯一の子供が女だという周りの落胆、幸い剣は嫌いではなかったが、少しずつただ確実に未来が閉じていく感覚、口にはされなくとも父の表情から年々冷めていく期待、対称に増えていく幼馴染に向けられる熱量、筋トレの量を増やせば精神より先に体が悲鳴をあげる、果てに無心で楽しめる少ない時間であるアルバートとの訓練さえも、未来の親方漁りだと揶揄されて、何度自分が男でさえあればと願ったか──それをお前は面倒くさいと笑うのか。いつか使っていた"チビ"という罵りが口をつき、目と鼻の間がツンと痛んでそれを見られたくなくて俯いた。泣けばこれだから女はと蔑まれるだけだ。肩で息をしながら、ギリギリと手に力が籠りシャツのシミが広がっていく。)
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