奏歌 翔音 2020-08-14 23:38:38 ID:5762b1903 |
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>如月知佳さん
知佳に禁忌の事を託した黄泉は禁忌へと向き直る。
が、その顔は今までの顔とはまるで別物であり、途轍もない真剣味が漂っていた。
【禁忌。もう充分であろう。汝はこれまで【最凶】であり続けた。……だが、それは汝が宿命に縛られていたから。【最凶】を演じるのは……ここまでだ。これからは自らを練磨し知佳と共に頂を目指せ。もう汝は挑戦を受ける【最凶の禁忌】では無い。強さを求め挑戦する【禁忌】に他ならん。禁忌よ。【最凶】の二つ名と余が与えた魔の力は汝が余に土をつけるその時まで………預かっておこう。】
『っ!!??』
黄泉の言葉に羞恥心から一転、絶望の表情へと変わる禁忌。
それは事実上敗者の烙印。
自分は最凶でいる事が出来なかった、そう言われているのと同義なのだから。
元々は与えられた他者の力だとは分かっている。
だが、力を失う事への恐怖が禁忌の足を後退させようとしていた。
だが
【余を失望させるなっ!!!】
その場に響き渡る黄泉の怒声がそれをすんでの所で阻んだ。
【ALL OR NOTHING。それが戦場の掟だと言う事を他ならぬ汝なら身に沁みている筈。今宵汝は余に敗北した。それが全てだ。その結果を受け入れ、全てから目を背け逃げ出すか。……それともその結果を受け入れ、それでも尚不屈の精神を持って頂を目指すのか。………全ては汝次第だ。】
『……………………っ…………!!』
何も出来なかった自分自身に気が狂いそうだった。
完膚なきまでの初めての敗北感。
初めて味わう弱者の気持ち。
それらが刃となり禁忌の心を容赦無く切り刻んでいく。
……それでも、禁忌は力を返す事を受け入れる。
悔しさがまるで噴火前の活火山の様に溢れ返る。
そんな今にも爆発しそうな感情を禁忌は必死に押さえつけていた。
勝者は手に入れ、敗者は失う。
それは今まで自らと挑戦者の間に課してきた絶対不変のルール。
それを捻じ曲げる事だけは絶対に出来なかったのだ。
黄泉の手が禁忌の身体に触れる。
すると触れた部分から光が発され、禁忌の中から何かが抜かれていった。
光魔、黒魔、無魔、極光魔、極黒魔、虚無魔
禁忌の中に確かに存在していたそれらの魔が禁忌の中から一瞬にして消え失せたのだ。
まるで最初から存在しなかったかの様に。
力を禁忌から抽出した黄泉はもう用は無い、と言わんばかりに禁忌の横をすれ違い立ち去ろうとする。
だがすれ違いざま………その足が止まり、決して振り向く事なく背中越しに黄泉は禁忌に語り掛ける。
【禁忌。………今汝が押し潰される程に感じているモノ。それが【敗北感】だ。その悔しさを身に刻め。そして忘れるな。本当の強さとは……敗北を糧にして生まれるという事を。】
その言葉は果たして禁忌の心にどれだけ届いたのだろうか。
それだけを呟き、黄泉は今度こそ………この場から姿を消していった。
黄泉が去り静寂が訪れる。
それと同時に禁忌は覚束ない足取りで知佳へと歩み寄った。
『………済まない。………今だけでいい………胸を貸して……欲しい……。』
それだけを言い、知佳の返事を聞く事はしなかった。
その言葉と同時に禁忌は知佳の胸に顔を埋める。
そして遂に………限界を迎えたのだ。。
『……………う………くっ………あああ………うわあああああああああああああああああああっ!!!!!』
悔しさ、情けなさ、敗北感、無力感。
ありとあらゆる感情が敗北したという事実を容赦無く禁忌に突き付ける。
それは今まで最凶であり続けた禁忌にとって…………想像を絶する苦痛であった事だろう。
禁忌の慟哭の涙
それは禁忌が今まで生きてきた全ての辛さ、苦しみがどれ程のモノであったかを……表しているかの様に彼女の頬を際限無く流れていく。
『…………私は…………何も……何も出来なかった………くっ………うあああ……あああああああああああああああっ!!!』
感情を爆発させ唯只管に涙を流し知佳の胸の内で慟哭する禁忌。
知佳の服を握る手には力が入り、その服に出来たシワは彼女がどれだけ悔しさを感じているかを明確に物語っていた。
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