山椒魚 2020-07-02 22:53:04 |
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透
( 居心地が悪くなって、視線が辺りを彷徨う。手が離されたことにホッとしながら、横を見てみれば彼は此方を見つめていて、空気が一瞬にして張り詰めていく。──逃れられない。そう察するのは容易なことで、困惑を示すように瞳が揺れる。答えてしまったら楽になれるだろうか?…否、この関係性は崩れるだろうし、代わりに目の前にいる彼に負担が掛かってしまうのは目に見えている。なんて答えようかと迷っていた時、空気が緩んだ。どうやら、今はまだ言わなくても良いらしい。頭を撫でて、彼は何も聞かずに立ち去って行った。「 はぁ…… 」緊張が漸く解け、肺に溜まった空気を全て吐き出し、顔を押さえる。指の隙間から覗く顔の色は林檎のように赤く「 何も聞かずに頭撫でてくのは狡いですよ博士… 」と今此処に居ない彼に向けて呟いた。それから、数十分後。顔の赤みが引くまで時間が掛かってしまった為、急遽、朝食を作った。トースト、スクランブルエッグ、シーザーサラダ。と簡単な物ばかりだが、今の冷蔵庫の中身ではこれが精一杯で。トレイに珈琲と朝食を載せ、彼の部屋へとやって来ると深呼吸を繰り返し )
博士、両手塞がってるので開けて貰えませんか?
杏寿郎
……。( 理由を知り、何を言うべきか暫し考える。彼女が自分と離れる事を良しとしないのは分かっていた。それでも無茶をするとは思っていなかった。力強く、” 忘れるわけがありません! ”と告げた彼女に、頷き少し微笑む。覚えていてくれているのは嬉しい事だ。前に教えておいて良かった。もし教えていなかったら今頃───ここまで考えて、中断する様に瞼を閉じた。今、こうして彼女が生きている。それだけで充分だ。ゆっくりと目を開き、言葉を紡ぎ出す。「 急いで帰りたい気持ちは分からなくはない。俺も昔はそうだった。…だが、無茶をするのはいけない。 」怒りに任せた声では無く、諭すように、あくまでも口調は穏やかなままで続けていく。「 相手は、普通の人では無い。鬼だ 」脳裏に過ぎるのは、猗窩座と戦った日のこと。彼女も、上弦の鬼と戦う日が来るかもしれない──確り伝えておかねば。「 毎回必ず勝てる訳では無い。負ける時や、引き分ける時もある。 」あの列車での出来事は自分にとって、勝利とは言えず、負けに等しい物だと考えていた。死者を出さずに済んだとはいえ、上弦を取り逃した上、己は片目も失っている。視力が回復する見込みがないと言われた時の事を思い出し、無意識に自身の手を握り締め。「 俺達は鬼殺隊だ。人を守り、鬼を滅することが仕事だ。焦りは死期を早める。無茶等、以ての外。 」こうして、自分が生き残ったのも運が良かったに過ぎない。無茶をするもの、冷静になれない者から、死んでいく。自分達が身を置いているのはそんな場所だと言う事を忘れないで欲しい。「 ……あまり、心配をかけさせるな。 」手を伸ばし、彼女の頭を優しく撫でて、酷く優しい声で告げた。彼女には生きていて欲しい。出来ることなら怪我だってして欲しくないのだ。頭から手を退かし、聞きそびれたことを聞くことにした。 )
怪我の具合を聞いていなかったな!余りにも酷いのであれば医者を呼ぼう!
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