翠亞 2020-05-25 00:34:01 |
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「交渉材料…で、でも、ウィアドは本当に何も知らないはずです。叩いても蹴ってもあのひとが知りたい事は何も…埃とかしか出てこないと思います。三女神について調べるために旅に出るくらいだったし、始祖のことなんて。」
( 最初から用意されたものを読み上げていくように流麗に語れる内容に静かに聞き入る。今己が生きていることが奇跡だとしか思えないほどの圧倒的な力があのひとにはあること、それに対して不思議と恐怖はない。分かっていた事が具体的に提示されたような感覚で、控えめに相槌を打っていた。─と、そこで僅かに落ちた沈黙に少し訝しげに隣を見た。さざ波一つ立たぬように振る舞っていた彼女が何かに意識を取られた、かと思えば嫋やかな仕草で隠しながらも笑いだした事にぱちぱちと目を瞬かせる。そんなにおかしなことを言ってしまったのか。そう若干蒼褪めたものの、気にするなと言われれば素直にうなずきを返して。"交渉材料"という無機質な言葉を噛み砕くようにして呟いてから、心底困った表情を浮かべてクレナイの方に視線を向ける。彼女に言ってもどうにもならないことは承知しているが、故意に隠していた事が無ければウィアドは始祖とやらの存在すら知らない筈。基本は落ち着いている彼ならばまだしも、あのひとに会ってからどうにも様子がおかしかった彼が今どうなっているのか。そのことに対しての不安が今更ながらでてきた。 )
「羽根を…」
( 彼女の頼みに対する躊躇、加えて悟られていた事に対する驚きから口を閉じる。微笑みの仮面の裏にあるかもしれない思惑、その存在には気づかず。ふわりと香る花のような匂いに酔いそうになりながら、考える。驚いてしまったが、隠そうともしていなかったのだからあのひとを気にしていることが分かるのは当然。ただ、自分とクレナイのあのひとに対する"興味"の形にはズレがある。己が知りたいのはあのひと自身であり、構成するデータに対する興味は二の次。それ故渡すメリットが必須事項ではないな、と言うのが一つ。…しかしながら、そもそもあのままであれば手に入れていたのは彼女であったのに貸すのを断るというのは良心が咎めるし、あのひとの事以外でも情報を持っているのは彼女の方で─など、暫く考えてから結論を出すとクレナイの方へと改めて向き直る。小さく息を吸ってから口を開いた。 )
「お貸しするのは大丈夫です。私に断る理由はありません。…その代わりと言えるかは分からないけど、一つお願いがあるんです。──貴女が言っていた宿命の御子、それについて教えてほしいんです。貴女はウィアドの名前を聞いてそう呼んだ。ウィアドすら知らない彼の事を、知っているんじゃないですか?」
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