名無しの部族 2020-05-02 02:16:19 |
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(笑いながら悲鳴を上げる、そんなちぐはぐな行動さえ神秘と映れば差し出された物も放ったらかしに剥き出しの目が放つ眼差しを受け取り。夜よりずっと暗い黒を見つめれば見つめるほどに血が沸き、背筋がざわつき、心臓がドクドク暴れるのは闇を恐れる本能か、虎男が唱えた奇妙な呪文のせいなのか。脳みそは何一つ追いついていないというのに、瞳の奥の奥に獣の瞳孔を見出すと腹の底から勝手に言葉がせり上がり『──怖がるな、トラ。俺は強いんだ。トラは殺したことないけど、ほら見ろ、それでも強いぞ』知らず知らず無邪気な少年の顔を凛々しい男の笑みに変え、胸元にぶら下げたジャガーの爪が連なる首飾りを掲げてみせる。その行動は嗅ぎ取った怯えらしき感情への答えであり、ようやく貰い受けた飾りを大事そうにそこへ引っ掛けては、空になった痩せぎすの手をグイと掴んで『お前にはラジャがいる、だから死なない。絶対だ!』不可思議な熱さに突き動かされるまま声を張り、驚いた鳥達がギャアギャア鳴き交わす森の中を力任せに歩き出し。腹が減って弱っているんだろう、多分。手に持つ鳥と大差ない指の感触に手負いの獣を連想しつつ、弱った者を守る責任感ばかりでなく"良い所を見せよう"という青臭い見栄から勇ましく湿った大地を蹴り。背丈より高い草とツタをかき分け、時折我慢出来ずに後ろを振り返りつつ道なき道を迷いなく進み、やがて聞こえきた水の音に一声上げて指をさし。行く先には木々が開け、真っ直ぐ差し込む日差しにきらきらと光る細い川。その柔らかな土の岸辺で引っ張ってきた手を離し『飲め!』再び水面と相手を交互に指すと、やにわに食いかけの鳥をブツ、ブツッと生々しい音を滴らせながら引き裂いて。自分には歯型のついた片脚を、あとは柔らかな腹も内蔵も丸ごと相手に突き出して『食え!』と、言葉からも活気を分け与えるような大声で畳み掛け )
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