案内人 2020-04-25 21:35:41 |
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「 まかい、」
途端芝居掛かった言動で饒舌に言葉を並び連ねる様に、驚く間もなくぽかんと瞬きを重ねることしかできない。何とか拾えた言葉を小さく復唱してみる。まかい。魔界?思わず身が強張り、肩に掛けた鞄を強く握る。一体何がどうなっているのか───結論が出るわけもない思考と緊張が足を引っ張り、再びの接近にはどうすることもできず、気付いた時には喉に手が掛かっていた。
ぞくり、肌が粟立つ。情けない声を出さないように内頬を噛み、男の言葉を聞き漏らさぬよう一字一句丁寧に拾って頭で処理をする。大半が要領を得ぬ話ではあったが、重要な部分だけは理解はできた。断ると同時に、喉に掛かる手が脈を引き裂くのだろうか。どうせこの先も飼い殺しの人生ならば、刑期が短くなるも同然なのでは、と保身的な自分が囁く。否、それを言うのなら今此処で殺された方が手っ取り早いだろう。様々な自己が意見を出し思案を巡らせるも、結局辿り着くのは単純な一つの本能。口を開けると、不恰好な浅い呼吸の音がした。
「 分かり、ました。20年、…きっと、他の人より価値はないだろうけど、…構わないなら、…。」
→ 応じる
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