案内人 2020-04-25 21:35:41 |
通報 |
不快な臭いが鼻を衝く。甲高い笑い声が耳を劈く。目端に捉えた人形が此方を向くのが分かり、小さく息を呑んだ。聞こえた小さな物音は何だろう。体の内側から聞こえる心拍音が煩くてよく分からなかった。今すぐその場に蹲って気を落ち着けたいが悠長に休む暇などあるわけもなく、硬直した体に鞭打って口内に溜まった唾液を嚥下する。
逃げ出したい。今すぐこんなところから出て、階段を駆け下りて───いや、あの腐りかけた襤褸の木だ、勢いよく降りたらそれこそ命の危険がある。ならばせめて隠れようか。でも、何処に、何から?ぐるぐると思考が渦巻く。更に身が強張り自然と肩が上がると、首に掛けたペンダントの金具が擦れた。
そうだ、あの男の話が本当ならば、今の自分は魔族だと偽ることができるらしい。それは五感を偽れることと同義なのだろうか。それならば、不可解な行動を取る方が危険な可能性もある。声なく口だけを動かして、頑張れ、と二回呟いた。自然な行動。きっとスケッチブックを捲るのが最も自然なのかもしれないが、不気味で気が進まない。他に何か、…懸命に目を動かし、ある一点で止まる。自宅での自分を思い描きつつ、なるべく自然に、引き出しへと手を掛けた。
→ 引き出しを漁る
トピック検索 |