案内人 2020-04-25 21:35:41 |
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「では手を此方に。」
名残り惜しげに再度首筋をなぞる。やはり殺めるつもりだったのか、悔やむ様子が伺えるものの寿命を喰らう事の方が勝るよう。手の平を落とすとそこに現れる黒塗りの本、パラパラとページが勝手に捲られ見慣れない文字が並ぶところで、これまた聴き慣れない言葉を発して彼女の中指を鋭い爪で裂いた。ポツリ落ちた血、と同時に本の文字が浮かび上がり、キラキラした透明な玉が幾つも身体から抜ける。男がそれを吸い込むと強烈な脱力感に襲われた。
「やはり若い魂は美味、幾分か若返った気がしますねぇ。では契約は成立とゆう事でひとつ助言を。魔界では人間は希少でして闇市にもいるのですがこれがまた高額。あなたが歩けば拐われるか喰われるか、…今バレなければと思いましたね?魔族は鼻がきくので隠すことは出来ません。
ではどうすれば…、ええ、ええ言いたい事は分かってますとも。」
発する機会を与えることなく饒舌に言葉を操るその男はさぞ極上のものを喰らったのだろう、上機嫌で呪文の刻まれた銀色のペンダントを内ポケットから取り出しこう続けた。これを身に付ければ魔族だと偽れる、しかし決して見られてはいけないとも。
「さて、そろそろ約束の時間ですね。私が必要な時はそれに問い掛けて下さい。魂のかけらはまだありますから、その分働きますよ。では、ご不運を…。」
金時計のふたを開け時刻を確認するとハットを整え一礼を。僅かに見上げたニタリ口、死神ならではの台詞と共に姿は闇に紛れ込んで消えていった。
男が消えるのを待っていたかのように月が青白い光を落とすと、周囲の景色が姿を見せる。随分と先に光がいくつか見える、後ろを振り返るとこれまた先の方に森が見えぼんやりちいさな明かりが見てとれる。左は一際大きな歪んだ木。その上に小さな家らしきものが吊り下がっている。明かりはないが近い距離にある。そしてその反対側には同じ造りのものがあり明かりが灯っている。此方も同じくさほど遠くない場所だ。向かった先は…、
*光の多いほうへ
*いや森だ
*左の方が良いだろう
*右が良いに決まってる
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