執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>ルシアン
ええ、?良いけど、あたし達が吠える時はオオカミの姿に戻るのよ。あんた、怖くない…?
( 小さな声と吐息が耳を擽る甘酸っぱい感触に、表情は緩んでいるが眉は困ったように浅いハの字を描いて。特訓の申し出に反射的に難色を示してしまったのは、もちろん拒絶の為ではなく。まさか従兄が既に貴方へその獣の姿をお披露目しているとは夢にも思わず、ヒトの姿に似ても似つかぬ獰猛な形を晒す事を懸念しており。それでも、己の種族の姿に近付きたいと望んでくれる姿はとても可愛らしくて「 あんたは耳も尻尾も似合いそうね 」と、つい残酷な言葉を心からの賛辞として口腔から送り出してしまうのだ。「 何よ、あたしの尻尾の方が絶対ギンハよりふわふわなんだから。ほら、確かめてみなさいよ 」くすり、綻ぶような笑いを零してから、貴方の愛らしい挑発に乗ろう。ふんぞり返るように仁王立ちして、両手を腰に添えながら、ボリュームのあるふさふさの尻尾を貴方の前に差し出して。嗚呼、こんなに柔らかくて暖かくて愛しいものに、なんて残酷な現実を突きつけてしまったのだろう。貴方が今までどれだけの時間を孤独に懊悩したのか、そこまで慮れなかった自分の浅慮に思わず歯噛みする。離れていってしまった貴方、そして小ぶりな唇から紡がれる同族の彼の名前。一番辛いのはいつだって貴方だ、それでも貴方という世界の中心には、その気高い意志と狼の彼が並び立っているのだろうか。――つくづく、嫉妬してもしきれない。「 ……それが、あんたの望みなら。あたしは全面的に協力するわ。約束よ 」後ろ手に隠した片手は固く拳を握り、ネコ科の様に器用に引っ込める事の出来ない爪が、自身の手のひらを突き破り、じわりと冷たい血が滲む。こうなってしまったことを、床に額をこすりつけて詫びたい衝動に駆られたが、それは貴方の覚悟にそぐわない。だからこそ、少しだけ鮮血の流れる両手を再び貴方へ伸ばし「 あたしからも一つお願い。この事を知ってるのはあたしだけ、なんでしょ? 」もし肯定してくれたのならば、一呼吸おいて再度開口し「 ルシアン、今まで独りで本当によく頑張ったわね。今は、今だけは、あんたの背負ったものを、一度置いたっていいのよ 」一緒に背負わせてくれ、なんて虫の良いことは言えなかった。きっとその役目を担えるのは、自分ではないから。ならばせめて、信じられないほど輝いている貴方を労いたくて、まるで縋るような泣きそうな表情のままに腕を差し伸べ続けて )
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