【 指名制 / Remake 】耽溺のグランギニョル【 提供人外 / マルチエンド式 】

＞ルシアン

わ、と…っ。アハハッ、ちびオオカミは今夜も元気ね！
（ 扉が開いた瞬間、春の夜風が頬を撫でるような心地よい錯覚と共に、純粋な少年の匂いが鼻孔を擽って。ぶわりっ、ひときわ大きく尻尾が揺れた直後、真正面からの衝撃と首にぶらさがる暖かい重みを受け止めて。見た目は華奢な女の細腕でも、怪物の膂力はヒトの規格外であり、脇の下に手を添え軽々と持ち上げる。今だけは自分が貴方を見上げる形となり、鋭い犬歯を隠そうともせず口端を広げて笑いながら、仲間内の挨拶とばかりに自身の冷たい鼻先と、きっと暖かいであろう貴方のそれ同士をちょこんと一瞬くっつけて。「 ん、何コレ？――がんばったでしょう…、あたしにくれるの？人間界のご褒美か何か？ 」すとん、と貴方を地面に下ろせば、重力に従って揺れる首元の何かに意識が傾く。怪物の世界には馴染みのない勲章に、目をぱちくりさせながら鼻を寄せ、くんくんと匂いを嗅いでみる。木材由来の紙の匂いと、油性のインクの匂い。これが何を意味するのか皆目見当もつかないが、表情に浮かぶのが怪訝な難色ではなく好奇心旺盛な喜色だったのは、貴方がくれた物だからだろう。「 プレゼントならもう貰ったのに。あのリボン、可愛かったわよ。――…、 」他愛もない世間話を口にしながら、お招きに甘えて部屋へ入る。食欲抜きで当たり前の様に人間の部屋を訪問するなんて、本当に一昔前なら考えられなかった事だ。そういえば兄貴はまだなの？――そう余計な質問をうっかり零してしまいそうになったが、寸でのところで言葉を飲み込むことに成功して。変に空いてしまった間を誤魔化すように「 そういやさっきギンハに会ったんだけど。"今なら吾の部屋にきてもいいぞー"とかぬかしてんの、ほっぺたニヤニヤさせながら。あの気難しいヤツがあんなにデレデレしてんだもん、あんた絡みってすぐ分かっちゃった 」歌い始めこそ、どこかふんわりとした焦りを含んだ食い気味の喋り口調だったが、饒舌に言葉を並べるうちに九尾のしたり顔が目に浮かび、彼を揶揄うような快活な笑みが表情に滲んで。その調子で貴方の肩をトンと軽く叩き" やるじゃん "なんてお道化たウインクを添えよう ）



――ご免。もーっと話してたいのは山々なんだけど、次のお返事待ってる間に眠っちゃいそうだから先に挨拶しとくわね。少しでもあんたと話せて良かった、もしこの次も会えたら続きを紡いでくれたら嬉しい、かもね。それじゃ、今夜も素敵な時間をありがと。あったかくして、良い夢見んのよ！