匿名さん 2020-02-11 22:19:53 |
通報 |
(解っていた筈だった。こんな事をしても根本的なことは何も解決しない事を。彼には当たり前だが帰る家が有り、家族だって居る。家族──そう。彼は彼女の家族では無い。弟と年齢や背格好も似ていたから重ねてしまっていただけだ。彼の口から発せられた言葉で改めて突きつけられる。私たちは家族ではない。赤の他人だという事実を。しかし、彼を一時的にだが保護して住まいへ連れて来た事に後悔はない。きっとあのまま見過ごしていた方が後悔する。彼にはきっと偽善者だとか思われているだろう。何と思われても構わない。憎しみが多い方が心に僅かでも残って貰えると考えては無意識に口を開いていた『 ──待って。さっき渡した本、あなたにあげるから。弟が昔読んでいた雑誌だし、もう読む人は居ないの。もしも欲しかったら、持って帰って。その方が本も喜ぶし 』このまま帰って欲しくなく適当な理由付けて呼び止めてしまった。理由ならもっと良い案が思い浮かんだ筈。だが、彼が持っていた本を見て彼なら本を大切に読んでくれると思い、託す事に。ぐるりぐるり、思考がこんがらがる。何時もなら冷静になって対処できる筈なのだが、彼を目の前にするとどうしても弟と姿を重ねてしまい、家族というフィルターがかかる。家族と思い込むと途端に駄目になってしまう。彼とは今日初めて出会った筈なのだが、何者も寄せ付けないような危うい雰囲気。言っていることと表情がちぐはぐで噛み合わない所に惹かれている。彼を大人としてやはり放ってはおけない。意を決したのか先程とは違い明るく朗らかな口調にて背中へ向かって話し掛ける。)
帰る前にあなたにお願いがあるの。私と一緒に食事をして欲しい事と、あなたの名前が知りたい。やっぱりずっとあなたと呼ぶのは嫌で。どうしても名前で呼びたいの……あなたの事を。
(願いが叶うかはわからないが、再び包丁を握り野菜を刻むという作業を再開させる。普段なら慣れた手つきで滅多に失敗しないのだが、ぼんやりとしながらの調理が悪かったのか包丁の刃先が人差し指の皮膚を掠り、血が溢れ出す。『 ──痛っ。もう、ダメね……今日は 』傷がそんなに深くなかったのが幸いで、俎へ包丁を置くと慌てて救急箱を探し傷の手当をしようと消毒液やら色々と取り出して)
トピック検索 |