泡沫の往く先。( 〆 )

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匿名さん  2020-02-11 22:19:53 
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  • No.16 by 八坂 秋彦  2020-02-16 03:18:34 






( 相も変わらず、自分の一日は暗闇から始まった。気怠い身体を起こし枕元に置いてある数冊の雑誌を手に取ると、傍らで蹲る''それ''を起こさないよう足を忍ばせ腐臭の籠ったバラック小屋を出る。外はすっかり陽が落ち、柔い月明かりが夜道に零れていた。この血腥い城の主、自分を怪物に変えた''それ''は裸電球の円らな光も蝋燭の灯火さえも、光を発するあらゆる物を忌み嫌った。おかげで自分が拝める光と言えば、こうして降り注ぐ月明かりと見窄らしい街灯の灯りのみ。生き血を啜るこの卑しい化け物の身体は、全てを明るみに引き摺り出す陽光を拒んでいた。月の光と太陽の光、辿れば元は同じ物の筈なのに、太陽の下には身体を晒せないだなんて何とも奇妙な話だ。小屋前に置かれた空のビールケースの上に腰を下ろすと、持って来た雑誌の内の一冊を膝の上に拡げる。以前ゴミ山から拾って来たそれは読み込み過ぎたせいですっかり縒れて崩れ、最早背の糊が剥がれかけていた。誌面に並ぶのは奮い立つ男達の英雄譚か身分違いの恋に苛まれる男女の悲愛か、はたまた鴛鴦夫婦の茶番劇か。何れにせよ、この古ぼけたページに触れている間は自分はどこにだって行けたし何にだってなれた。この瞬間だけは自分が薄汚い化け物である事を忘れる事が出来た。だから『食事』の時以外はこうして本を読み耽ってばかりいる。これを失えば最後、きっと自分は小屋の中で蠢く''それ''と同じ物に成り果ててしまうに違いない。…ただし人ならざる身である以上は安易に人に近づけず、自分がこの雑誌の続きを買う事何て夢のまた夢。待てども待てどもこれら種々の物語の続きを読む事は出来ず、ぐるりぐるりと同じ話を巡るだけ。自分は物語の中でも囚われたままで、結局どこにも行けやしない…ふとそれを自覚させられると、深く溜息を吐いて誌面から目を離し。力無く項垂れて。)




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