きちがいひつじ 2020-01-31 20:15:52 |
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>59 エトワール
強がるって。エトワール、なかなかに君は酷いね。( 波風立てずに平和に。そうやって生きていた人間の闇を暴き、その上純粋に笑顔を向けてくる。愛らしい羊の皮を被った狼、あるいは天使の皮を被った悪魔とも言えるそれが恐ろしい。「まさか。全然怯えてなんて──」平気な顔で否定しようとして、そうしてぴたりと言葉は止まる。その残酷さをまったくわかっていないような無垢さには勝てそうになかった。息が詰まる。言葉にぬらない。誤魔化せば良いだけのはずなのに、次々と思い出される記憶がそれを許してくれない。「欠陥品、だからね」ぽつりと呟いた言葉を最後に、仮面はだんだんとゆっくり剥がれていく。「そう、秘密。二人だけしか知り得ない、今だけの秘密だ」本当は語る必要などない。煙に巻くことだって、きっと出来なくはないだろう。小指を絡め、決まり文句を口にする。その後で彼へと向き合い、正面から見詰めよう。しん、と静寂が訪れ、いっそう温度が下がる気がした。闇を背にしながら語り始める。「この傷は、俺が俺を終わらせようとした証だよ。生きようと決めたから、もうつけることはしないけれど」そっと手首の傷へと触れ、ゆっくりと。いつの間にか目に熱い物が浮かんできていることには、気付かない振りを。 )
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