! 2019-11-01 16:11:42 |
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『…ごめんな』
(薄暗いリビングで、それだけが虚しく響いた。それは余りにも突然で、何を話されたのかすら、理解に時間がかかった。お気に入りのカップも、愛用している鞄も、今は視界に入らなかった。
両親が死んだあの日、切なさよりも悲しさよりも高揚感が自分の胸の内を埋め尽くしていた。これで、俺にも居場所ができる。自分だけの、大切にしたいと思える様な場所が。そう信じて疑わなかった。彼に会って、変われると思った。正直、変わりたかった。でもそれはこんな形を望んじゃいない。違う。信じたくない。こんな話を聞きたいんじゃない。そればかりが頭を巡る。
俺は、ただ素直に自分の人生を楽しみたかっただけなのに。それが何故、どうしてこうなってしまったのか。俺はまだ未熟で、この状況を変える手段も、強さも持っていない。もしいつかこうなる事が解っていたら、あの日彼にはついて行かなかった。そうだ、全てはそこからが間違いだったのだ。あの日、彼に惹かれていなければ。今更どう言い訳しても、どうにもならない事だが。いや、はなからどうしようも無い事だった。こうなる事は必然で、逃れられない運命だったのだ。どうせならもっと早く知りたかったなんて、今となっては意味のない言葉だ。
ここにはもう、俺の居場所はない。彼とは、一緒には居られない。居てはいけないんだ。
今思えばとても短い間だったが、うるさくも平凡な日々を送らせてくれた彼に対して、俺は泣き出したいのを堪えながら、精一杯の皮肉を交えて呟いた)
「…ありがとう」
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〈解説と後書き〉
これはある青年が、両親を亡くしてからずっと世話になっていた親戚である“彼”に秘密を打ち明けられる場面。平凡な居場所を探し続けてきた自分にとって、それは余りにも重すぎる事実。それを聞いて、彼と自分は違う存在なんだと未熟ながらに認識し、ここにはもう居られないと自覚しながら、それでも今まで育ててくれた恩を返す様に、たったひと言告げる…所まで。
趣味で書いている小説の主人公が、もし現実を受け入れられていなかったら…というifバッドエンドを綴ってみました。
初めまして、素敵な場所をありがとうございました。私は普段短文でオリキャラなりちゃを嗜んでいる者ですが、この板を見つけて是非腕試しおば!と思い、拙いですが精一杯書かせて頂きました。こんな風でよろしければ、お誘い大歓迎です!
では。
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