! 2019-11-01 16:11:42 |
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ん。ありがと。
(そう一言、誰にとも言わず呟いた。聞いているのは多分静かに降り注ぐ透明な雨粒だけ。
闇の中にぽつぽつと蛍の足跡のように光る街灯の1つの下で、ふと何かを握りしめていた左手を街灯に掲げる。メールを見て、そのまま出てきてしまったらしい。スマホの液晶画面に、大きな水滴がひとつ、ふたつ、みっつ。彼女からのピンクの兎のキャラクター絵文字付きのメールを滲ませていた。
『今、会いたい。B川の橋で待ってて』
へんなの。こんな土砂降りの中に、増水した川の前で待ち合わせ。
でも、考えることは一緒だね。流石私の彼女。
下の方で、私が打った待機中のメッセージ。
『一緒に居たいな。B川n』
途中で切れているのは先にポコンと着信音がなったから。全く同じことが書かれていて、思わず吹き出して……安心した。
よかった。一方通行の愛じゃあなかったんだ。
世間様では阻害されて、じーえるとか言われるこの恋も、あってよかったんだ。
遠くから、ぴちゃぴちゃと水溜まりを硬い靴で打つ音がする。みると、期待通り。彼女の少し革に傷があるすっかり湿ったローファーが、街灯に照らされていた。
「待った?」
そう悪戯そうに言う彼女に、無言で首を振る。
すっかり冷たくなった制服も、ジメジメして崩れたポニーテールも、彼女の顔を見てすぐに乾いた。
前髪が額に張り付いている彼女は、それを直そうともせず深刻そうな顔を作って息を吸い込んだが、私の表情に気づいたのか。そのまま息を吐いて、にっこりと八重歯を見せて笑った。
どちらからともなく手を組み、凶暴なほど流れる川を愛おしそうに見つめ。
なんの掛け声も振りも無しに、私たちは欄干を飛び越えた。
ざぶんと大きな爆発音が耳元で鳴り、凍るほど冷たい水が体中を包み込んだ。
でも、繋いだこの私より一回り小さな手があるだけで、泥みたいに濁った川の中も、天国みたいに思えた。
耳、鼻、口。全部から水が入り込んでくる。不思議と苦しくない。)
ごめんね。
(見えているかも分からないのに、そう口だけで言う。
ぎゅっと手のひらが、強く握られたのが分かった。)
とんでもない駄文ですが、どうぞよろしくお願いします。
書きたかっただけです()
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