! 2019-11-01 16:11:42 |
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――――ごめんね。
(雨がザーザーとうるさいくらいに降っていた。そんな中僕の目の前の彼女は、一言、そう言った。普通なら雨にかき消されて聞こえなくなるような、小さな小さな声で。その声は少し震えていた。彼女も、こんなことはしたくはないのだろう。でも、仕方がない。どんなことがあろうと、所詮、本能には敵わないのだ。周りの音が聞こえなくなる。雨がゆっくり、ゆっくりと地面に落ちてゆく。彼女との日々が頭の中に、走馬灯のように駆け巡った。無邪気に笑う彼女の顔、自分の性癖を悲しそうに話す顔、真っ赤になって怒る顔、全てが、冷え切った僕の心の中を温かい何かで満たしてくれた。こんな僕でも、必要としてくれた。そんな人と出会えた。クソッタレな人生だと思ってた。でも、最後に君に出会えて、最後に君の顔を見れて、最後に君と会話して…………。最後に君に殺されるのなら、僕は本望だ。腹のあたりに、激痛が走る。僕の腹から、温かい液体が流れていく。その液体は雨と混ざって消えていった。ゆっくりと体が倒れる。彼女はすごく苦しそうな、悲しそうな顔をしている。"また、やってしまった"と。嗚呼、そんな顔しないで。いつものように笑ってよ。僕は君のあの、太陽のような笑顔が大好きだよ。だから、最後も…………その笑顔で、見送ってくれないかな?
「ありがとう。大好きだよ。」
これまでも、これからも。ずっとずっと。この身が滅びたって、僕の想いは一生、消えない。君は僕をこんなに惚れさせたんだ。今更後悔したって遅いよ。責任は取ってね?僕は君が死ぬまでずーっと、君の傍に居ると。君が、ほかの男を見ないように、見張っててあげる。ほかの男のことなんて、見ないでね?君はこれからは僕だけのことを見てね?忘れさせなんてしない。僕の心に君がずっといるように、君の心にも僕がずっといるんだ。ほかの男を見たら、その男は呪い殺してあげる。君はもう逃げられないよ。ニコリと彼女に微笑みかければ、彼女はおびえた目でこちらを見る。ふふ、大好きだよ。ずっと僕という鎖に繋がれて?僕だけの可愛い殺人鬼ちゃん。)
スペース感謝します。練習に使わせていただきました。
解説
ここに出てくる「僕」は人生に絶望した自殺志願者です。何度も自殺未遂を繰り返しています。『彼女』は好きになった人を殺めるという性癖の持ち主です。すでに何人か人を殺めています。
二人はだいぶ前に知り合って、『彼女』が自分の性癖を打ち明けられるほど、「僕」が絶望した人生に楽しさを覚えるほど、親密な関係になっていました。
そしてある日、ついに『彼女』はごめんね、と一言言って「僕」を刺し殺してしまいます。
「僕」は『彼女』に刺し殺されることを本望だ、と思い微笑みながらその場に崩れ落ちます。
幽霊になってもなお、『彼女』のことが大好きな「僕」は『彼女』を自分だけのものにしたいという欲望のままに悪霊となり、『彼女』に近づく男を全て呪い殺すようになります。
そんな「僕」はきっとおぞましい姿になっていたのでしょう。
『彼女』は「僕」を見ておびえた顔をしました。
そんな「僕」が見えてしまっている『彼女』にはいよいよ…………。
ホラー&ヤンデレを書きたかったんです。気分を害された方、誠に申し訳ございません。
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