きめつの

きめつの

徒然  2019-09-30 00:56:08 
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とあるトピックで作った伽羅設定が何となく気に入ってしまったので、短文もどきを細々書いて行こうと思ってコソコソ。

※きめつのやいば、の二次創作になるからできる限りコソコソする

※勝手によその子に設定をつけないように気を付ける

※勝手によその子を登場させるのをなるべく避ける、もしくは名前だけの登場に留める

以上の事を気をつけてコソコソ噺。
鳥頭だからちゃんとメモって置く事。

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  • No.3 by 徒然  2019-10-03 01:03:50 

美しいものは強い。
冬季がそう考えるようになったのはいつ頃からだろうか。
美しいものは強い、姉は美しい。
見た目が美しいか、と言う意味は冬季の「美しい」という単語にはあまり含まれなかった。
冬季の姉、弥生は冬季にとって美しかった。
姉は浮世離れした雰囲気は持っていたが、決して村一番の美人等ではなかった。
見合いの席に呼び出されては、「もう少しお淑やかであれば」「べつの娘の様な気立ての良さが有れば」と口に出される様な、その程度の美人さであった。
冬季の瞳に映った弥生の美しさというのは、呼び出しておきながら文句を垂れる男達に「そうかい」と笑顔のまま返せる弥生の強さだった。

弥生は強かった、双子の兄弟である睦月の根性を全て吸い上げたのでは? と誰もが思う程肝が太かった。
山の狼が降りて来て人を襲うと言われれば松明片手に狼を追い回したし、肝試しに廃屋に入った子供が帰ってこないと聞けば埃まみれになりながら連れ戻して来た。
冬季も真冬の冷たい川へ足を滑らせた時、弥生が助けてくれた事があった。
身を切るような冷たい水の中に、年頃の娘が下着同然になってだ。
引き上げた冬季に、唇を紫色にしながら微笑んで脱いだ着物を掛けてくれた姿は、冬季にとってこの世の何より美しいものとして映った。

弥生は美しい、弥生の美しさは不変のものだ。
冬季には確信があった。
弥生は何時だって誰よりも強く、誰よりも肝が据わっていた。
母が鬼になった時だってそうだ。
母の帰宅を出迎えたのは春木と秋だった。
戸口に幽霊の如く立っていた母に、秋が駆け寄り、その秋を追い掛けて春木が母に近寄った。
この時母が幼い秋を襲わなかったのは、理性か…それとも本能か。
母は春木に掴みかかり、その鋭い牙を春木に突き立てようとした。
あの瞬間の春木の、何も理解出来ていなかった顔が冬季の記憶には強く焼き付いていた。

あんなに悲しい顔があるか? あんなに惨い表情がこの世にあっていいのか? あの凍りついた姿が弟の最後になるのか?

その時の恐怖が冬季の記憶へ深く深く、あの表情を焼き付けたのだろう。
その時に飛び込んで来たのが、異変を察知した姉だった。
誰よりも早く、誰よりも強かった姉は、弟と母を天秤にかける事無く、ただ襲いかかる彼女をまず引き剥がした。
崩れ落ちた春木の首根っこを引き摺って母から話したのは、春木と口喧嘩をしてばかりいた千夏で、ぽかんと口を開けたまま呆然としていた秋を抱えて離れたのは、いつも姉にしかられては弟の前だろうが泣いていた睦月だった。

遅ればせながら母に駆け寄った父は、弥生に「父上来るな」と穏やかに、しかし有無を言わさぬ声色で言われてその場に立ち尽くしていた。
冬季なんてもっと酷い、呆然と座り込んでいるだけだった。

母が踏み込むのが見えた。

「姉上!!」

冬季が伝えようと叫ぶより先に、母が弥生に羽交い締めにされたまま跳躍した。
鴨居に強く背中を打ち付けた弥生は母から手を離してしまい、母はその隙に弥生に喰らいつかんと掴みかかった。
弥生は母の顔面と、首を握る手とを掴んで、食い殺されない様に抵抗していた。

「睦月、冬季」

弥生の声は、異常事態にも関わらずとても落ち着いていた。
万力の様な強い力で弥生の首は握られている、さぞ呼吸はしにくいだろうが…弥生は何ともなさそうに微笑んでいた。

「鬼狩りを呼んでおいで、黒い…詰襟の蘭服を着ている奴だ」

見覚えはあった、何度か見掛けたこともあった。
時折刀を持っているとかで警官に追い掛けられていた姿も冬季の記憶に新しい。
あれは鬼狩りというのか、彼等なら弥生を救えるのかと冬季は立ち上がった。
睦月は「でも…!!」と弥生に近寄るが、弥生は「睦月」とだけ呼んだ。
その一言で、睦月の腹を決めさせるのは十分だったらしい。
睦月も立ち上がり、冬季と共に人里を駆けた。
ようやく見つけた鬼狩りと共に家に戻った時には、姉の瞳が無かった。
戻る迄の時間は、短寸を半分に折った線香が燃え尽きるくらいの時間だろうか。
その間に何があったのかは、わからない。
千夏は歯を鳴らす程震えてはいたものの、兄の春木と弟の秋を押し入れに閉じ込めて庇うように…威嚇する様に戸に張り付いていた。
父は情けない事に腰を抜かして、恐らく姉のものだろう目玉を一つ、両の手で包むように持ちながら呆然としていた。

鬼狩りがその光景に口を抑えて驚いていたのを見たし、睦月が悲鳴をあげて近寄ろうしたのを覚えている。
弥生は唇を切っていた、多分自分の歯で食いしばった時に切れたのだ。
痛いだろうに、駆け寄ろうとする睦月のを「睦月」と呼んで止めた。
……両の眼を抉られているというのに、穏やかな声色であった。

「私の母だ、どうにもしてやれない、弟を喰う前に切ってやってはくれないか」

卑怯な事を頼んでいるのはわかっている、と弥生は言った。
冬季は母を喪うかもしれないという衝撃よりも、姉を喪うかもしれないという恐怖の方が強く、動けずにいる鬼殺隊へ

「早く!!」

と声を荒らげた。
漸く刀を抜いた鬼殺隊へ、父が掴みかかった時の衝撃は、冬季に父を敬う気持ちを失わせるのに十分だった。
刀を持って遠くへ逃げようとする父に紐で括られた薪を勢いよく投げた時、父の頭から赤い血が飛び出たのは冬季にもよく見えた。
見えていない弥生にも聴こえたのだろう、「冬季?」と少し驚いた様な…しかし穏やかな声が聞こえた。
倒れて頭から血を流す父から刀を奪い取り、鬼に向かって走る。
鬼狩りが「頸を斬れ!!」と叫んだのが聞こえ、姉上を斬らないように、しかして鬼の頸を寸断する為に勢いよく。

刀を、振り下ろした。

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