2019-07-21 18:59:45 |
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ある曇天の日の事、僕は耳と尻尾を生やした少女に出会った。
「 ────貴様の願いを叶えてやろう。貴様の願いは何だ? 」
少女は尖った八重歯を見せながら、爪の長い人差し指を立てて僕に問い掛ける。そう言えばこの前罠に引っかかっていた狐に良く似ている気がする、...いや、気の所為かもしれないが。気を取り直し、少女に問い掛けられた事を考えてみる。
「 ...僕の願いは──── 」
僕自身には何も望まない、このまま身が朽ち果てても構わない。全ての人が幸せになるようにと願うのはただの偽善者だろうか、あまりにも規模が壮大過ぎるだろうか。それとも、矛盾だらけのこの世界でそれを望むのは不可能だろうか。
「 また今度、考えておくよ 」
それだけ言って僕はポツポツと空から降り始めた雨の中、少女に笑いかけて見せた。雨の香りと濁った灰色の空は、僕の心と感情を表しているようだった。
──────僕はもう、長くない。だから命が尽きるその時に聞いて欲しい、僕の願いを。僕は自分が死んでしまう時も、同じ様に願っているだろうか。
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