匿名さん 2019-06-10 15:59:22 |
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【竜の独り言】
「…………暇だ。」
(くぁ、と漏れ出た間抜けなあくびとそれに続いた言葉が、湿って淀んだ空気を揺らす。自らが三体に分裂すれば埋まってしまうような半球状の地下牢には、明かりらしきものはない。当然だ、見張りの兵士は久しく来ていないのだから。奴らが来なくなった頃に頭上の足音も消え去ったから、きっと地上にあった城や王国は滅んだのだろうと、あくびの主は想像していた。)
「"これ"も無くして逝ってくれたらよかったんだが……無駄に内包魔力が多いから今後千年は稼働するだろうし、本体は地上にあるから破壊することも叶わんな。
あぁ、退屈だ。」
(劣化を防ぐ魔術加工済みの鎖がついた長い尻尾を、地面にビタン、と力なく叩きつけて、深緑の鱗に覆われた巨体は考える。もうずっと、翼の一つも広げていない。身体は循環する魔力で作られているため腐ることはなかったが、その力が確実に衰えていることはわかっていた。ついでに、独り言が増えていることも。)
「だいたい奴ら、何百年も己の国を守っていた守護竜を占いごときで封じ込めるってなんなんだ、阿呆なのか、痴呆なのか……それは奴らから離れなかった私もか。
あぁ、それにしたって暇だ、退屈だ、もううんざりだ、外に出たい!」
(ビタン、ビタン、バシンと苛立ちを込めて尻尾を壁に打ち付けるが、石造りの壁は揺れはすれど、崩れる気配は微塵もない。それら一つ一つに緻密な防御魔術が刻まれていたことは、数百年前に大暴れした際にわかっていた事だった。)
「……無駄、か。あぁわかっている、これ以上考えていたら気が狂いそうだ。寝てしまおう。そうだ、それがいい。」
(亡国の城跡、荒れ果てたその地下で、拘束魔術具と床を埋め尽くす正の字に囲まれて。その竜は再び眠りにつこうとしていた。)
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