匿名さん 2019-06-10 15:59:22 |
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【蚊取り線香】
(好きなものは、貴方の傷の赤と、蚊取り線香の静かな匂い。それだけじゃないけれど、その二つは似ていて面白い。蚊なんてとうに何処かへ飛び去ってしまっただろう、然し未練がましく部屋の隅で焚いている。冷房が効いているのに、私はなぜだか団扇を片手にぼんやりと。無駄なものは、時折小さな愉しさをくれる。
貴方はこの香りが嫌いだろうか、包帯に染みついてしまうかもしれないから。
「何、読んでるんです」
団扇を動かしながら、貴方の肩の後ろから覗き込む。「面白いですか」にこりともしないで尋ねるが貴方だって私に向けて微笑まない。この沈黙も嫌いではない。
私と居るときには何の気兼ねもなく腕を晒すのは、此方からすると傷がよく見えて嬉しいのだが、少し恥ずかしがったり隠す素振りの一つは欲しい。然しそれよりも気になるのはその傷が前見た時より増えていること。心配に眉を下げつつも、その赤は鮮やかでよく映えている。幽かな欲情の念を混じえた視線は直ぐに隠して。
線香が燃え尽きるまで、)
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