匿名さん 2019-06-10 15:59:22 |
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>87【 嘘吐き 】
>124【 波打ち際 】
( 貴方の好きなように、生きて欲しい。初めて、誰かの為に嘘を吐いた。きっと貴方は、私と一緒に居たら枯れてしまう。だから嘘と一緒に手放した。嘘は、あの人の中に在る違和感を眠らせたまま日常へと馴染み、繋がり一つ残さず消えていった。あれから何年経っただろう。一週間前に知人との何気ない会話で、果たされなかった約束の一つを思い出した。一握りの好意が残っていたのか、何かで目にしたツァイガルニク効果とやらかは判断出来ないけれど、一人電車に揺られて約束の地へと赴いた。「綺麗」かつて焦がれた海は、美しいままだった。波打ち際まで行き、靴を両手で持って足を濡らす。意味なんか無い、ただやってみたかっただけ。それが案外気持ち良いもので、冷たい海水が、不要な熱を持った身体を優しく鎮めてくれる。そのまま少し歩いて、あの人との日々を振り返る。後悔していないと言えば嘘になるけれど、別れこそが私にとってのトゥルーエンドなんだろう。別れた当時は抜け殻みたいな有り様だったのに、大人になったなあと自嘲する。優しく響く波の音は、まるで私を労ってくれるようだ。「ずっと疲れてたもんね」ふと、溢れた言葉に違和感が目を覚ます。疲れてるって、どうして。確かに心に穴が空いたみたいに空虚だったけど、それでもあの人との毎日には満足していた。疲れると思ったことなんて、一度も。そんな言い訳を遮るように波が打ち寄せる。馴染んで真実になったはずの嘘が、波によって洗い流されるような感覚に、頭がくらくらする。心が波立って仕方ない。手の中から靴が落ちて行くのを気にも留めず、ある事実を確認する。あの嘘は、初めてなんかじゃない。何度吐いたかも分からない私の為に吐いた、嘘だ。 )
────枯れてしまいそうだったのは、私の方だったんだ。
( / 相手を慮り嘘を吐いたつもりが、本当に離れたかったのは自分の方だったと気付くお話。素敵なお題とスペースありがとうございました!拙いロルですが、別の視点から繋げて下さる方がいれば嬉しいです。お目汚し失礼いたしました。 )
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