匿名さん 2019-06-10 15:59:22 |
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【或る夏の日+初恋は叶わない】
(七月。夏休みとは言い切れないが、珍しく纏まった休みが取れたので、両親に事前に連絡を入れてから旅行カバン片手に実家へ帰省する。電車に揺られて数時間、駅に到着して降りれば何も変わっていない風景が視界に広がる。母に迎えられ実家に帰って荷物を置いて一息、世間話を少ししてから散歩がてら外に出る。今日は約束の日だからと向かった先は……)
……あぁ、やっぱり。
(想い出が、所謂タイムカプセルというものが埋まった、嘗て青春を謳歌した高校に植えてあった木の下。開ける年と日にちだけ決めて埋めた、当時口から紡がれることがなかった想いが詰まったもの。約束した相手は居なくて、開けられた形跡も無く、所詮は口約束だから仕方ないかもしれなくても、待とうと思う。思い出に耽りながら、夏の暑い日差しが降り注ぐ中、座り込む。
たくさん笑って、泣いた日を思い出す。躓く度に手を差し伸べて引っ張ってくれた。喜びも悲しみも分かち合った。家が隣だからだったからなのか、何かの縁なのか、いつも常に一緒だった。喧嘩もたくさんした。その度に仲直りもした。その度に惹かれていった初恋だった。結局それを告げる機会は無かった。
ぼーっとしていれば、いつの間にか少し肌寒くなり星が輝き出した夜になっていた。己の待ち人が来ることはないようで、開けようかどうしようか迷って、開けずに帰ることにした)
……忘れちゃったかな。
(頬から一筋の雫が落ちる。仕方ない、仕方ないと言い聞かせながら帰路を辿る。誰だって忘れることはあるんだ、仕方ない。雫が落ちたせいで、外は肌寒いはずなのに、熱かった。
あの日埋めたものはもう、開けられることはないのだろう)
だいすき
(小さく呟いたその言葉は夏の夜に吸い込まれる。長年溜まった想いはもう二度と、相手に届くことはないのだから)
(/お題、スペースお借りしました。とある女性の初恋と約束は叶わぬものとなってしまったのです……。お相手は男性でも女性でもいいなぁ、なんて思いながら。お目汚し失礼致しました!)
〆
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