匿名さん 2019-06-10 15:59:22 |
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[ 題 : 春の訪れ ]
(鼻に燻る香りはまだ雪の足跡を残し、命が芽吹くまでにはまだ些か色の足りない景色だが確実に毎日の訪れの中に次なる季節が顔を出している。外気に触れる耳や鼻の先、指の関節はやや赤く染まり吐いた息の白さは風に流れて空へと消え、まだしんと静かな景色は白く覆われて、歩く度に雪の踏みしめる音が鼓膜へと届く。地面に着きそうな程の長い髪を静かな風に靡かせ、肩に羽織る法衣を寒さを凌ぐように腕を交差させてしっかりと着込んでは皆が眠る夜の帳、幾分高い白の月の下その明かりを頼りに整えられた奥ゆかしき中庭を通り抜ければ寒さの中、雪化粧をした椿を愛でる聡明な眼をした男が独り。少しだけ弾む鼓動を抑えて草履の底から沁みる雪の冷たさに足が縺れそうになるものの、寒さの中薄着のしかして立派な狩衣姿の男の元へ駆け寄れば寒さか嬉しさか上がる息を整え。頭ひとつ分違う大きさの男は同じ男として見てからも余程大きいのだと理解でき、掛けた法衣を落とさぬようにと握っていた手を離し、そこに軽く握られていた小さな折鶴を差し出して見せると満足そうに頷いた男がふぅと息を吹き掛けると折鶴は空へと翔いていく。それを嬉々として見上げ感想を言おうと顔を戻した時、既に男の姿は無く地面に落ちた椿を見下ろしては哀しそうな笑みを浮かべるも、不意に頬撫でるような風が吹きその強さに思わず目を瞑るも微かに薫それに目を開けて見ればひらりと桜の花弁が雪と混じり舞落ちて。春の報せを教えてくれたそれにひとつ笑みを浮かべると、最期に逢えた喜びと好きな季節の花を見せてくれた優しさとにいつの間にか生暖かい涙が頬を伝い落ちていく。掌を向ければ舞う花弁がひとつ届き、溶けていく流れを見届けると男もその場に崩れ落ち冷たい雪に埋もれるかの様に、温かな布団に包まれるように意識を手放して)
( / 素敵なお題をありがとうございます。冬も春も好きで移り変わる様を、儚さと少しの不穏を乗せて綴ってみました。久方振りとなるロルで駄文続きですがとても楽しかったです。スペース感謝致します。 )
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