梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>梔
(彼の怪我や体調を心配しつつ後ろを一定の距離を保って歩いてついていくと蔓に包まれた建物に辿り着く。その怪しくも不思議と心を引きつける外観に目を奪われながら差し出された手に数秒の逡巡のあと自分の手を重ねて建物内へ足を進め。
扉を潜り建物内へ足を踏み入れ少し俯かせていた顔を上げた瞬間、広がる光景に小さく目を見開き息をのむ。まるで外界から切り離された絵画のような神秘的な空間は、外の薄汚れた世界、人の醜い謀略や陰謀、殺戮が蔓延る世とは全く無縁の場所を思わせ、真の己を暴かれて見透かされる畏怖を感じさせながらも如何なる人間も平等に無償で迎え入れてくれる神聖さを感じて。そんな光景に心奪われていた時、耳に届いたのは決してこの空間を邪魔することのない彼の透き通った優しく澄んだ声。小さな滝の水音と溶け合うその声色に引き寄せられるように視線が絡めば、ドクンと鼓動が跳ね上がる。───ただ綺麗だった。夕日に煌めく艷やかな黒髪が、その瞳が、佇むその姿が、そしてその心が…。朽ちてはいないと言う彼の言葉通り確かに其処には一輪の花が咲いていて彼の言の葉がしとりと胸に染み渡るのと同時に己の愚かさが浮き彫りになるようで息が詰まって。それでももう目を逸らすことはなく彼の言葉を受け止めるといつも緩く飾った微笑みではない、静かな微笑みを向けて。「ありがとう、梔。…君たちの忠誠心は疑ったことはないよ。特に君はまっすぐに俺を見てくれて今回の1件も君なしでは終結には至らなかった。他のみんなも俺を信じてヤマトの為によく動いてくれてるし、みんなの信頼は痛いほど感じてるよ。俺には勿体無いくらいにね。」視線を流れ落ちる滝へと移し穏やかな声色で話すと最後に眉を少し下げて微笑みを零し。そして彼へと視線を戻すとゆっくり歩を進めて彼の前まで来て視線を合わせたままその頬へと手を伸ばす。触れる瞬間自分が触れたら朽ちてしまわないか、そんな不安から微かに指先を震わせつつひたりと滑らかな肌に触れて「……俺の傍にいるとまた傷つくかもしれないよ?」と。そう、一番の懸念は己の弱さで再び彼らを傷付けてしまうこと。彼や部下たちが弱くなくないのは知っている。ただ危険に晒すことは変わりない。不安なのだ。自分がいることで大事な仲間を、彼を傷付けることが。しかしそれを理由に頭領の立場を簡単に背けないのも理解しているため混迷していた。その不安を口にすることなく彼の頬に触れる手を今は治療された肩へと滑らせると優しく撫でて微かに揺れる瞳で彼を捉えて。)
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