梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
ありがとうございます…こちらになります。(あぁ、今日は我儘を言ってばかりだな、と彼の少しだけこちらを向いてくれた横顔を前に反省しながら彼の前に出る。閑散とした路地裏の道をさらに一本奥に入り、しばらくすると錆びと蔦で元の素材が見えなくなってしまった建物が見えてくる。割れた窓ガラスや朽ち落ちた壁、天井の部分からは緑が芽吹き、夕焼けが迫ってきた橙色の光が差し込んで妙な空間を作り出している、そんな建物の中へ続く扉の前に立つと「お手をどうぞ」と彼に向き直り手を差し出して。
中のある壁の一面は仮にも建物の中ということを忘れるような雨水の小さな滝とその水溜り、名前など分からないものの見事、きれいに咲き揃った雑草の花達、そこに寄る小さな蝶…自然と廃墟が一体化したような不思議なそこへ彼を案内し終えると眩しげにそこへ差し込む夕日を一瞥して「…俺、ここの妙な雰囲気が好きなんです。静かで、落ち着いてて…誰も来ない所も。」振り返った視界に映る彼は、水に反射した夕日と蝶の薄い羽から落ちる鱗粉を纏い、美しく見えた。今は憂いを帯び、深い悲しみと混乱を写す瞳であれど、自分にはこの一件が起こる前と、今の彼の美しさ…心身とものそれに変わりは無い。「誠さん、貴方はお優しい。貴方の今の心境を残念ながら自分は察し切れるものではないと思っております。…ただ、これだけはお伝えしたいんです。自分の忠誠は朽ちておりません、他の皆もそうです。自分が貴方を疑ってしまった時、部下が敵に捕まった時、貴方は自分達を見捨てたりせず、暖かく手を伸ばしてくれました。そんな貴方に我々は付いて行こう、貴方を支えたい、と思ったんです。
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