梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>梔
(彼のたった一言の返事、文字にして2文字のその言葉は此れまでに何度も自分に向けられた言葉であり、変わらぬその言葉から彼の己に対する信頼が、想いが伝わって来て胸にじわりと染み渡る。それでも振り返ることなく歩を進め、彼が後ろから付いてくるのを感じながら闇医者の戸を抜けて細い階段を上がっていき。と、階段を上りきった辺りで不意に彼から声を掛けられたかと思えば、それは思いがけない誘い。思わず振り返ってははたとすぐ視線を横へと流して。彼からの…本来であれば此方からしなければいけない気遣いを怪我人である彼に背負わせていて不甲斐ないばかりだが、此処でまた彼に背を向けてはいけない気がした。まだ正面から彼と向き合う覚悟は出来ていないが、『榊誠』として己を見てくれた彼に、その彼くれた機会をふいにしてはならない…、そう思えば微かに目を伏せ「その誘い方はずるいよね…。」と聞こえるか否かの声量で呟いたあと彼へと少しだけ顔を向けて「…傷に触るようならアジトに帰らせるからね。」となるべく普段と変わらない緩やかな声色で告げて先に彼を通すよう道を開ける。この後は彼の療養のためにも自宅で休ませるつもりだったが…、一体彼はどこへ行こうと言うのか。全く想像も付かぬままこの後どう彼と向き合うかに思考を巡らせて。)
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