梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(ここで彼を行かせては駄目だ、と本能が警告を鳴らす。先を見通す知識と慈愛があふれた瞳は今は、その長く物憂げな睫毛で伏せられ、今まで我々を守ってくれた勇ましく、威風堂々たるその背中がほんの一瞬目を逸らしたうちに夏の陽炎に連れ去られそうな、そんな先程とは違う恐怖が腹の奥から湧いてくる。もう彼をこの手から逃したくない、そんな汚い我欲が行動として湧いて出、この部屋から出て行こうとする彼を後ろから抱きしめる。「榊さん、待ってください…!」自分のものだろうか、と一瞬迷うほどに焦燥に駆られた掠れ声で彼の名前を呼ぶ。「もう、貴方を失いたくないんです…。」自分より少し低い彼の頭をじっ、と眺めても今はどんな表情をしているのか分からず、戸惑いが勝りそうになるが、彼を留めたい、という気持ちは強く、彼を抱きしめる腕はそれを代弁するかのように強く力がこもる。「…自分も、同行させてください。」時間にして数十秒、自分の考えが纏まると、彼の腕を緩い力で掴んだまま彼の体から離れ、斜め後ろに立つと、そう要望を口に出す。彼が自分の頭を冷やしたいというのは本当だと思うが、彼を狙う他の者がいるかもしれない。それに、今の状態の彼をそのままにしておけない、という自分の気持ちが強いのもあり。掴んだままの彼の右腕を指の腹で一度拭うように撫でると「お願いします。榊さん。」ともう一度、今度はやや強く申し出て)
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