梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>梔
(身体を掴まれたことで剣先の軌道がずれ致命傷を大きく外し、何故こうも邪魔をするのかと苛立ちが募るも彼が目の前に立ちふさがりその揺るぎない真っ直ぐな双眸と視線が合った瞬間、凪いだ水面に再び大きな波紋を作る。邪魔で煩わしかったはずの彼の声から言の葉から耳が離せなくなり、今信じている偽りの信念が慄きその不安定感から微かに瞳を揺らがせ、彼が一歩ニ歩と距離を詰めるごとに半歩後退るも気づいた時には2人の距離はごく僅か。男の『そいつの話に耳を貸すな!!』と喚く声が聞こえた気がしたが、その声は酷くぼんやりとしていて彼と2人、外界から切り離された感覚になって。彼の手が刃を掴み、その靭やかな手から鮮血が流れ落ちるのをどこか遠くに見た時、凛と澄んだ声が己の名を呼ぶ。“誠”と。その瞬間、スゥと胸の中を風が吹き抜け、一輪の白く美しい花がゆらりゆらりと舞って水面に静かに降り立つ。自分はこの花を良く知っている。粛々と目立ちすぎずそれでも確かな明媚を放ち、愛らしさの中に毅然たる魅惑を秘めた可憐な花。「……梔…?」酷く掠れた声と戸惑いで揺れる瞳で彼を捉える。なんだこの状況は…と鈍い痛みが走る頭の中にあらゆる記憶と情報が一気に流れ込んできて、情報の処理が追いつかずグラリと足元が揺らぐも彼が掴む刃だけは動かさぬようにしていて。「…俺は、何して…」彼を傷つけたのは、彼の後ろで倒れている部下を傷つけたのは自分なのか…それだけじゃない。自分は我欲の為に多くを巻き込み傷つけた。戸惑いや絶望、後悔、自己嫌悪…負の感情が入り乱れ、いち早く起点を利かせてこの場を立て直させばならないと理解しているのに己の頭は狼狽えるだけで全く役に立とうとしない。その様子に赤髪の男は榊の催眠が解けたと察し焦燥と焦りから表情を歪めて『何してんだ!!さっさとそいつを殺れ!!!』と梔を指差し部下たちに吠えるように命令して。梔の背後に立っていた大男がゆらりと動き背中に背負う大剣を引き抜きこちらに迫ってくるのが見えては、反射的に刀を構えようとするもこのまま刃を引き抜けば彼の手を深く傷付けることに気づく。だが、きっと彼の反射神経なら…彼なら自分がこの後取る行動を組んでくれると…裏切っておいて虫のいい話だが彼を信じて大男を見据えたまま一気に刀を後ろに引き抜き、彼の身体を軽く押しのけると彼がどうなったか確認する暇もなく空間を切り裂くように振り落とされる大剣をギリギリのところで刀先を手で支えることで受け止めて。
その頃、男達のアジトの外近く、茉莉花は車での尾行に成功し何とか此処までたどり着くもまだ中に乗り込むのは躊躇しており。あともう少し…あと少し待って動きがなかったら行動に移ろう…と疼く古傷を手で押さえアジトの入り口を見据えていて。)
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