梔 2019-05-10 21:27:49 |
通報 |
>>榊
(さりげなく後ろに回った自分の手を縛る縄も切断すると、こちらに向く彼からの温度のない殺意にやはり一筋縄ではいかないか、と唾を飲み。しかし、かた、と彼の手が微かに震えているように感じ、僅かに希望を抱くがそれも一瞬。「しまっ…!」彼の狙いは自分だと過信しすぎていた。一瞬にして向きを変えた刃はまるで流水の如く滑らかさで自分と部下との間の空気を切り裂く。その刃を止めることは不可能。体の反応速度が追いついたのは辛うじて刀を振るう彼自身に飛びつき、彼ごとその狙いを外そうとする程度のこと。しかし、やはりその美しささえも兼ね揃えた剣舞は揺らがない。自分が彼にタックルを仕掛け、狙いを狂わすことは叶えども、銃を構えた部下の右肩には早くも深々と切り傷ができ、それによる悲痛な男の悲鳴が響く。部下の目には『何故』という疑問と『痛い』という感覚が混ざり、死への恐怖が満ちる。「…っ、やめとうせ!コイツはあんたのことを誰よりも信じちゅうのは、あんたも分かっちゅうやろ!?」慌ててその場に崩れ落ちた部下と榊の間に滑り込むと両手を広げてその信仰を阻もうと声を荒げる。部下も自分も満身創痍、自分に武器は無く、部下の銃も先ほどの攻撃で弾き飛ばされてしまった。まさに四面楚歌、絶体絶命…しかし、そんな状況だからこそ、最後に彼に言葉を伝えられるとしたら今しかない、と覚悟だけは決まった。彼にこの言葉が届くかわからない。先ほどの言葉も、届かなかったと思うと、だんだんと気持ちは凪ぎ、口調も戻ってくる。しかし、彼が彼らしくある、普段の優しさを、暖かな笑みとその背中を思い出して続ける。「…あなたの思い、過去、全て聞きました。俺は少しも知らなかった…あなたはいつも俺たちの事を知って、助けてくれました。そのお返しがしたいんです。」そう言いつつ彼との間を一歩分詰める。「あなたは今、復讐に囚われて我欲で他人を傷つけている。それはあなた自身が一番嫌うこと。復讐をやめてほしいわけじゃないんです、俺もあなたのおかげで復讐ができた。ただ、今のままでは、復讐したい相手とあなたは同じになってしまう。自分の為だけに人を傷つける者。あなたが望むのはそうでないと、俺は信じてます。」一歩、また一歩と自分と彼との距離を詰めるごとに言葉を発し、刀を向けられてなお愛しいその瞳から目を逸らすことなく、その刃を掴む。彼が操られている間に、部下に傷を合わせてしまったことを彼が知れば、彼は必ず自責の念に駆られる。そんな彼の悲しい顔を見たくはない、とその刃を自分に向けさせて。「…帰ってきてください、誠。」)
トピック検索 |