梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(イチの口から語られる榊の過去に何も言葉が出ない。イチの口から聞くことができた、ということも大きいのかもしれない。その言葉は重く、鋭く、ただし人の優しさと温もりを持ったもので、『他人を傷つけたく無い』そんな彼の優しい信念を彩り、揺らぎかけていた榊誠という男の輪郭を強く鮮明なものに戻した。「…もちろんだ。教えてくれてありがとう、イチ。」イチの手を軽く握り、自分の覚悟を込めて真っ直ぐにその眼を見据えるといつも可愛らしい笑顔が大人びて見えた。優しく、他人を誰よりも思いやる彼をここまで奮い立てる復讐心は如何程に強いのか…その復讐の炎は強ければ強いほど、彼自身をも痛めてしまうもの。そして彼の心情を無視し、過去の痛みを掘り起こし苦しめるあの男達に対する自分の心にもそれは伝染する。恐らく部下達の心情も自分と大差ないだろう、現にこの組から距離を置いていた兄がこちら側に着いたのも彼に対するあの男達に怒りを抱いているからだ。「…明日は敵のアジト散策を。アジトが判明し次第突撃ができるように、動ける者の半数はさっきの拠点を中心に活動。残り半数は休養と装備の点検、補充…また、今晩のうちに戦闘に備えて各自の準備をするように。」自分がつけていたGPSは今は破壊されて反応がなく、アジトの捜索から始まるため、連絡役の部下にそう伝えるとその日は体を休めるために部屋に戻り。
日付が変わり、夜が明け始める頃にはヤマトの者は重い空気を纏いつつも、『頭領を取り戻す』という強い結託の元、昨日の戦闘があった廃倉庫へと足を運び。拠点へ移動した者のうちの更に半数を休養兼待機を指示し、1人2組で散らばって広範囲の捜索を開始する。兄はまだ不審感を抱く者が大半である為拠点付近の車の中に待機させ、自分はまだ経験の浅い部下と組んで付近の目ぼしいタイヤ痕を調べていると『見つけたぞ…なぁ、お前らヤマトのもんだろ?』背後から聞こえた声に2人とも武器を構えるが、見覚えのある向こうも2人組。間違いなく昨日赤髪の男の部下の中にあった顔だ。若い衆も怯むことなく『おい!てめぇら頭領を何処へやった!!』と威勢良く噛み付くも、返ってきた男達の返事は『おっと、変な行動は慎め。これの意味が分からんほどお前らも馬鹿じゃないだろうが。』と同時に見せられた写真。その写真に映る男性は間違いなく我らが頭領だが、昨日見た時よりも疲れでやつれているように見える。常に優しさの滲む目元には怒りによる憎悪が代わりに滲んでいることが、閉じられた瞼の上からもはっきりと分かる。その憎悪を拭い去りたい衝動に駆られるがその彼はいま自分の手の届かない場所にいる。何より目を引いたのはその首元の美しい柔肌にあてがわれている不敬な刃物。散々彼の心を弄び、利用した挙句脅しにまで使うとは…ぢり、と脳味噌の隅が焦げ付くような怒りが心を支配しかけるが部下の『くそっ…卑怯だぞ!!』という自分の心の代弁のような言葉に我に帰り「…榊さんは無事なんだろうな。」『今のところは、な。お前らが黙ってついて来るんならこのお綺麗さんには手ェ出さねぇよ。』そういうと相手の男はずた袋を取り出して『武器と通信機器を全部この中に入れろ。嫌なら死体にして連れて行くぜ?』と催促されると、部下と仕方なくそれに応じ、どこからともなく現れた車に乗ってアジトへ向かって。
一方赤髪の男のアジトでは、睡眠薬入りの茶を飲まされた榊を客室に寝かしていたため、確認も兼ねて朝食を持ったお手伝いの女性がその部屋をノックして。)
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