梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(命からがら逃げ出して、全員存命であることを確認できたのは別の拠点としていた建物の中で、イチの手当てを受けながらのことだった。彼はこの界隈で一二を争う部下思いでそれ故の育成能力は素晴らしく、イチ以外の救護班も他の負傷者に手当てを行なっている者の腕は確かだからこそみんな存命しているのだろう。そんな彼が部下達に刃を向けるとは未だに信じられず、先程の彼をただ思い出す。「ありがとう、イチ。問題ない、神経が無事だったからな。」軽く指を何度か握って確かめるとそう答えるが、続いた問いに目を伏せて先程の彼を思い出す。あれは薬や脅しとはまた違う、彼の意思が籠っているように見えたが、その中に何か…純粋な子供が両親の言うことを無条件に信じるような違和感があった。「…その件に関しては兄貴が動いてる。癪だが情報関係については兄貴の方が強いから。」それに、その為だけに此処に居られると言うのが正しいか。茉莉花は自分と同じく彼を慕い、敬い、恋慕を抱く…彼のために何かしたくてやきもきしているのだろう、ならばそれを上手く使う。恋敵なのだ、それくらいはいいだろう…等と考えていると伸ばされた手が視界に入り、不思議そうにそれを見やる。今にないほど真剣な表情を浮かべるイチに少し罪悪感を感じながら「すまない、イチ…お前には迷惑ばっかりかけるな。…でも、やっぱり榊さんを早く連れ戻さないと…コレより強い痛み止めはあるか?」と申し出る。確かに自分のコンディションは良くはない。しかし、彼は一騎当千の力を持ち、この世界でもトップを争う戦力、戦況把握と的確な指示を出す頭脳を持ち合わせ大いなる脅威となる。…しかもヤマトにとっては自分の手の内をほぼ知られている、つまりアキレス腱に包丁の刃を突き当てられているようなもの。実際、自分のように彼へ刃を向けることを躊躇う者も少なくはない。躊躇は刃を遅くし、続く仲間の足をも引っ張る…この状態を長く続かせても良いことはない。ならば先手を打つべきだろう「一度アジトへ帰還し、装備、体制を整えたのちに頭領奪還作戦に着手する。司令役の部下へそう伝えるともう一度イチへ向き直り「大丈夫だ、必ず榊さんを連れ戻すし、それまで俺は倒れない。」と少し笑み、アジトへ帰還する車に乗り込んで。
一方、赤髪の男達はアジトへ戻ると部下へ『榊誠への対応は客人としてもてなすように』と指示をしているらしく、丁寧に広場へ通される。それはそうだ。戦力として最強の欄に名前を連ねる男を手に入れ、嬉しくないはずがない。また、その彼は強さだけでなく、気品と美しさも兼ね揃えているのだから尚更である。その艶やかな黒髪から覗く烏の濡羽の如く光を受けて輝く瞳に捕らえられ、彼に好感を寄せない者はここには居ない。『まァ寛げよ、お前にはこれから働いてもらわなきゃならんからなぁ?ハハッ、必要なもんがあればそこの部下を使いな。服でも武器でも何なりとなぁ。』とだけ赤髪の男は伝えると適当な部下を顎でしゃくり榊の側へ付き添える。これはもちろん監視も兼ね、その部下の体には無線と小型カメラが仕掛けられており。それを確認すると本人達は違う部屋へと戻っていこうとし。)
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