梔 2019-05-10 21:27:49 |
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榊>>
(彼の優しく、穏やかな表情の上に張った氷の膜。それがパキリ、と僅かにヒビが入り、温厚篤実なからの微笑みが一瞬露わになったような気がした。しかし、目を凝らすと見えたのは苦しむ彼の伏せられた瞳と、再び向けられた冷たい敵意。今までの敵から受けた殺意よりもずっと強く、深く、純粋なソレは先程よりも鋭く脊髄を突き刺す。間違いなく過去に彼が敵に向けていたソレだ。異変はあれど、彼の本質が変わった訳ではない…そう感じると目の前が真っ暗になったような感覚の後に響く金属音。兄のものだと気付くには少し時間がかかった。「…誠さん…俺は諦めんけん…っ!絶対に連れ帰るけんね!今じゃのうても、明日でも!明後日でも、絶対にあんたを連れて帰る!」兄の言葉に驚きと悔しさが一緒になって込み上げてきて、少しの間何も答えられなかった。それを癪に思った赤髪の男の部下が動き出そうとしたのが皮切りとなり、少しでも彼に届くよう、兄を軽く横へ押しのけ、口布を外してそう宣誓する。「…やから、そんな痛そうな顔せんといてください。貴方が傷つくのは、嫌です。」最後の言葉は口布を直し、地面へ煙幕を叩きつけながらの言葉になった。煙幕は一気に部屋の中を覆い、慌てた赤髪の男の部下達が換気をし終える僅かな隙に男2人を逃がすのに十分な量だった。『ハハッ、オマエに恐れをなして尻尾巻いて逃げてったなー!
この調子でこの後も頼むぜェ?榊サンよォ!』二人分人の少なくなった廃倉庫に最初に響いたのはそんな赤髪の男の言葉。続いてそれを笑う数人の声。余程赤髪の男は上機嫌なのか、馴れ馴れしく榊の肩を抱き、自分たちのアジトへ連れ戻ろうとそのまま外へ待機させている車まで歩こうとし)
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