梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>梔
(本来、彼ならば確実に余裕を持って対処出来ただろう剣先、刃は無情にも彼の肩を斬り裂きその細やかな肌を傷付け、鮮血が彼の服をジワジワと朱く染め上げるも依然榊は顔色一つ変えずに愛しいはずの彼を冷ややかに見据える。それは普段殆ど取り乱すことのない、冷静で泰然自若な彼が心から叫び、訴えかけても変わらなかった。が、最後に、名前を“誠さん”と呼ばれた瞬間ズキンと海馬を直接揺さぶられるような痛みが脳内を貫き、僅かに表情を歪め空いた手で額を押さえる。彼の言葉に耳を傾け、応じなければならないと奥底に眠る自制心が微かに浮上し、彼に向ける剣先が下がるも、それは一瞬のこと。男の催眠の呪縛は強かった。痛みに耐え額を押さえたまま下げた剣先を再び彼に向けると、まるで煩わしいものを見る目で彼を見据えて「…しつこいよ。今君達と一緒に戻るつもりはない。」と冷たくはっきりと告げると同時に片足を踏み込み一気に彼との距離を詰めて再び刃を向け、───刹那、キンッと金属音が響きすぐに離れた場所に短剣がカランと音を立てて落ちる。榊は短剣を一瞥した後、己の刃を止めた主、梔の背後からこちらに近づいてくる人物を睨みつけて。『坊、そない怖い顔して…、冗談ならこんぐらいにしといたほうがええよ?』「…茉莉花。弟思いなのは買うけど今は邪魔かな。それにこれは冗談じゃない。…これ以上妨げになるようなら“傷物”でも容赦はしないよ。」と微かに口元に笑みを携え、彼の兄に蔑みの言葉をおくると刀を構え治す。茉莉花は困ったように笑いながら梔を背に残った短剣を握り込むも、フウと一息吐くと短剣を閉まって榊たちに背を向けて『ほら、行くで。』と梔の右腕を軽く掴みジトリと視線を向けてはこの場から去ることを促して。)
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