梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(彼の柔らかい声の中に特別、という甘い二文字が混ざったことに気付けば、あっという間に鼓動は早くなり。彼の喉から零れ落ちるソレが、自分だけに向けられているのだと分かればそれを逃さず聴きたい欲に駆られるが自分の鼓動が煩く邪魔をする。「…幸甚の至りです。」彼の言葉に溺れそうになりながらもそう返せば、次いで彼の頬に注がれた朱に目を奪われる。彼の言葉、姿、反応…全てがひと瞬きごとに姿を変える万華鏡のように彼自身の美しさを曝け出す。「その…今日は、俺も貴方の特別になりたくて。…お許しいただけますか?誠さん。」ゆるりと向けられた彼の笑みに悔しいかな、そんなに離れていないはずの歳の差の余裕を感じてしまい、ついその可愛らしい笑顔を崩したくなってしまう。自分の汚い欲に負け、彼の強い意志を込めた瞳の中に映る冬の景色に手を伸ばし、それを縁取る下睫毛を掠めて、直下の頬を親指の腹で軽く触れる。彼のほの明るい頬は、まさに血の通った温かい心の人間であることの証明の様に見えて、無意識に自分の目尻も笑みに歪んで。「…それと、遅くなってしまいましたが、こちらを受け取ってはいただけませんか?…大したものではないのですが…。」彼の頬を触れようと繋いだ手とは逆の手を出したことで、その腕にかけていた小さな紙袋が現れてしまうと小さく苦笑いしながらそれを差し出し。これは休みを頂いた時に店で見かけて、彼に似合う色だと買ったもの。今伸ばしている腕にちょうど収まっている、彼からの腕時計へのお返し。もちろん彼からの贈り物ほど値の張るものではない為、不安が少し声にも混ざる。「…お店に着くまでは、開けないでくださいね。」本当はもっと格好良く渡したかったのだが、焦ってしどろもどろになってしまう。それをなんとか押し隠し、自分に出来る精一杯の冷静な顔をして一言告げると中心街の方へ向けてゆっくりと歩き出し。)
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