梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(彼の温もりを惜しみながらも別れて少し後。アジトに置いているロッカーの中の依頼をひっくり返し、少しでもまともな格好はどれだと頭を悩ませる。まさか服装を決めるだけでも、彼のことを考えながらだと、こんなに悩んだり、楽しくなったりするのか、とひとりでに頬が緩み。結局、暗器の隠しやすい薄手のコートとVネックのニット、チノパン…そしてその下に暗器を着装すると、最後に小さな包みを持って待ち合わせの桜の木まで足取り軽く駆ける。その道中も思い出すのは先程の彼の仕草や言葉。移ろう表情は一つ一つが彼の内なる優しさや強さを通して異なる輝きを白日の元に晒し出し、一瞬たりとも目が離せなくなる。言葉もそうだ。彼の唇からこぼれ出した、自分しか知らない彼という言葉は一瞬の間に自分の心を貫いた。今までずっと憧れ、焦がれていた高嶺の花が自分の手に収まってしまうのか、という欲望にまみれた期待が胸を高鳴らせる。彼の指が触れたマスク越しの唇には火がついたかのような熱さがジワリと宿り、それを思い返すかのように舌舐めずりをひとつする頃には待ち合わせをしていた枯れた桜の木はすぐ目の前。彼を待たせてしまっていたらどうしようか、と木の周りをぐるりと一周しながら彼の姿を探し。)
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