執事長 2019-05-03 19:58:05 |
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>レナード
―――レナード、(行きと違い帰りは一人。効果が得られるかは分からないが、迷わないように壁伝いに手を付いて前ヘ進む。無力でちっぽけな人間風情が、人知を超えた生き物が蔓延るこの屋敷の中で、部屋まで辿り着けるかどうかはまさしく神頼み。道中でまだ見ぬ怪物に襲われ、命を散らしたとしても今の自分なら甘んじて受け入れるだろう。罪を犯したのであるなら罰を受けるのは当然の報いだ。それでも、仮に先の一方的な会話が最期であったとしても、謝罪と礼を伝えることは出来たのだから。彼の元まで連れて行ってくれた蝙蝠も良い子だった。無意識に零れた笑みが霧散したのは、頬を撫ぜた一陣の風。窓が開いている訳でも屋外でもないのに?不可思議な現象に手の内の懐中時計をぎゅうと握って身構えるも、視界に映った青年の姿に瞳を見開いて呆然と彼の名を呟く。まさかもう一度会えるとは思わなかった。そうして静寂の中、落とされた静かな言葉に我が耳を疑った。驚愕の色に彩られた群青の双眸が、ややあって笑みの形にゆるりと細められ「……ああ」止まっていた足を再び動かす。爪先は彼と同じ方角に向け。しばらく歩んだところで、彼の口元の傷に気付き。その姿かたちが端麗であるからこそ、小さな傷ですら痛々しく見える。擦ったあとが残る口元へ、気遣わしげに、そっと手を伸ばす「…どうしたんだ、それ。擦ったら血が余計に広がるぞ。布か何かで」黒衣の裾口でヒトとは違う色の血を拭おうとして、彼の身に触れる直前、我に返ったように左手を引っ込め、逆手に握る真鍮を握り)……すまない。
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