執事長 2019-05-03 19:58:05 |
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>レナード
こっちに来い、ってことか?…はは、君はお利口さんだ。(闇雲に走ったところで彼に会えるとは限らない。それでも、こんな素晴らしいものを与えられたのに、礼を述べるどころか彼を責めてしまった言動を謝りたいだけ。今はそれだけが第一、屋敷の異常性や自らの身の安全なんて、そんなものは二の次だ。腕の内からするりと抜け出した使い魔は主の元へ戻るのだろうか。あの子の後を追って行けばあるいは。蝙蝠を見失わない様、先を行く小さな背中を追いかける内に此方を振り返る素振りに気付き、足を止めることはないものの、口角を少しだけ緩ませて。そうして数分はひた走っただろうか。ようやく群青の虹彩に捉えたその姿、遠目に見ても美しい銀糸を持つ青年と距離を詰めながら必死に声を張り上げ「レナード!」声音に滲むのは深い痛悔。静かな空間を裂いた声は彼の元に届けられるだろう。何なら騒々しい足音も。迷いのない足取りは彼の僅か数歩手前で止まり、進む背に向けて、ぽつりぽつりと自らの罪を懺悔しながら項垂れ「……すまない。俺は君が部屋に来てくれたことが嬉しくて、訪れた意味を考えなかったから」祈具である十字架に触れる様に右手の内の懐中時計を強く握る。最後には顔を上げ、眉尻を下げながらも心からの謝礼を。仮に彼が返事をくれずとも、自分の気持ちは少なからず伝わった筈だ。伝わっていて欲しい「―――ありがとう、ごめんな」目的は果たした。あとは部屋に帰るだけだと、踵を返した爪先は、先程までの威勢とは打って変わって、静かなもので)
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