執事長 2019-05-03 19:58:05 |
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>ウーミン
( 吐息は熱く、時折掠めるように触れる肌は冷たい。ひぐひぐと喉を引き攣らせる弱った自分に人肌を感じさせるちぐはぐなそれらは心地よく。両腕の痛みを無視できる程ではないが、それももう自分以外視界に入らない様子の相手からなら許せてしまった。独り占め、私だけ。ああこんなにしあわせなことがあるだろうか! 彼女は今、私しか見ていない。もしかしたら他の獲物がいるのかもしれないけれど、今は、今この瞬間だけは、私が彼女のものであるのと同じように、彼女も、私だけの──「 ひゅ、はっぁ、うぁ、 」視野が一気に狭まり、世界が急に暗くなる。既に足りていなかった酸素の欠乏が深刻になったのを感じたが、どうしようもないこともまた肌で感じていた。脂汗が噴き出すように滲んだ傍から奪われていく。あついのかつめたいのかすらもよく分からない頭で、必死につなぎ止めた意識が拾ってくれた貴女の名前。声帯を震わせる空気の通る隙間などなく、はくはくと唇を動かして音のない声で「 ウーミン、ね、おぼえ、たわ、わたしの─ 」天使が唇を塞ぐ。最後まで言わせてくれない待てのできない相手なら、私だって我儘を通してもいいだろう。血管が潰れて神経の逝った腕をぎこちなく動かして首に回す。幸せなキスの麻薬が効いた状態なら、たとえ首をへし折られて死のうが痛くないはずだ。目の前の怪物を神が遣わしたお使いと信じてやまない彼女は、この後神のみもとに行けると疑わずに黒く咲くことだろう。だらりと力の抜けた血のにじむ両腕が、重力に従ってはからずも彼女を抱きしめていた )
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