執事長 2019-05-03 19:58:05 |
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>ニコル
――おいしい。おいしいよう(瑞々しい淡い緑の双眸、零れ落ちたそれはまるで真珠。長い年月を孤独に耐え、海底で懸命に己の全てを凝縮させた結晶体。不味い訳が無い、否寧ろ今まで食べた事が無いほど極上の味わいで。譫言のように熱に浮かされた言葉を繰り返し、真っ赤な舌で掬うように涙を舐め取る一口ごとに、酩酊感にも似た多幸感が増して行く。貴女が泣いた理由なんて解らない。泣かせようと仕組んだわけでもない、そんな能がこの阿呆な堕天使に備わっている道理も無い。だからこそ、苛烈なまでに純粋。一点の曇りもない食欲は、余所見などせず只々貴女だけに向けられている。脈動も昂揚も制御できない、嫌するつもりも無い。無意識に荒くなる呼吸、冷たい筈の吐息が熱を帯びる。このけだものに、極上の獲物を前にしても尚、その願いの言葉を冷静に聞き届ける事は不可能。聞こえていたのかいないのか、定かではないが結果として貴女の手首は凄まじい暴力から解放される。けれどその矛先は、細く美しい首筋に向けられて。華奢で小さな両手で貴女の首を絞めながら、額に、頬に、耳に、唇と舌を這わせて汗を喰らう。「ん…はぁ、」砂漠に吹き荒れる熱風の様な、灼熱と見紛うほどの熱を孕んだ吐息を耳に吹きかけ、半身を引いて貴女の顔を見つめる。依然として、気道を絞め上げる両手の力は緩まないまま、蕩けた双眸と僅かに上気した表情で「―ウーミン。わすれないでね、うーの名前。あなたはとってもおいしいの。だから、だからね、生まれ変わってもまた、うーに会いにきてね」あどけない舌足らずな口調は、理性が本能に溶け去り、捕食の多幸感でぐずぐずになってしまっているから。侫悪な感情は一切ない、獰猛な願いを真正面からぶつける。貴女の名前は知らないけれど、でもそんなものは必要ない。「約束だよ?うーの大事なブリュネット」小首を傾げてふわりと微笑む姿はまさに天衣無縫。後光を背負うように広がるのは、而してくすんだ荒れ果てた翼。一方的な約束に拒否権は無いのだろう、再び唇を奪ってしまえば同時に凶悪な力で首をぎりぎりと絞める。もう直ぐ、堕ちた天使は美しい貴女の首をへし折るだろう)
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