執事長 2019-05-03 19:58:05 |
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>ウーミン
ぅんあ、( 首筋の鼻先が掠れた部分からぞく、と刺激に見合わない痺れが走る。覚悟も何もなく抑えられずにそのまま飛び出した変な声に自分で驚きつつ、宛てがう手のないまませめてもの恥じらいで顔の半分をシーツにうずめようと。死者のようであった彼女の体温も、愛撫にも似た仕草で頬にて分け合うと寧ろ心地がよく感じたが、やや火照っているせいだと決め込んで、温度が奪われていることに気づかずに。「 ──、は 」その言葉がぷくりと膨れた端整な形の唇から紡がれた途端、自覚するよりもずっと早くに大粒の涙がぼろりぼろりと目尻からこぼれ落ち横髪を濡らす。理解や承認といったことから縁遠い人生の中、『いい子』は殆ど悪口として自分に放たれてきた人生の中、それはしかし心に染み込むように響いて報われぬ女を容易く慰めた。先程自分の涙を美味しそうに味わっていたから、そのための言葉でしかない可能性にきちんと気付きながら、彼女は神が私に与えたもうた救いなのだという馬鹿げた思考が頭を占拠する。こちらの事情などお構い無しに口付けを止めない彼女にもう全てくれてやる心地だった。一番ほしかったものを、何の悪意も迷いも含みもなくくれたのだから、寧ろ幸福だ。……あと一つだけ我儘が通るなら、私の中に僅かに残るありったけの感謝とか愛とかそういうものを詰め込んで、彼女をその大羽ごと掻き抱きたい気持ちがあったけれど。「 …いたい。逃げないから、離して、── 」呼ぶ名前がないことに、今更気がついた。 )
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